中央なかほど)” の例文
丁度私の田舍は高い山のはづれで、一段づゝ石垣を築いて、その上に村落を造つたやうな位置にあります。私の家はその中央なかほどにありました。
馬は良し乗人のりては上手でぽん/\乗切のっきってやがて小原山の中央なかほどへ参りますと、湯殿山ゆどのさん深彫ふかぼりのした供養塔が有ります、大先達だいせんだつ喜樂院きらくいんの建てました物で
町の中央なかほどの、四隣あたり不相応にいかめしく土塀をめぐらした酒造屋さかや対合むかひあつて、大きい茅葺のうちに村役場の表札が出てゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
微暗うすぐらい土蔵の中には中央なかほどに古い長櫃ながもちを置いて、その周囲まわり注連縄しめなわを張り、前に白木の台をえて、それにはさかきをたて、その一方には三宝さんぽうを載っけてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この壇階子の中央なかほどより道はふたつにわかれたり。右に行けば北の台なるかの座敷牢に出づべきを、下枝は左のかたに行きぬ。見も知らざる廊下細くしていと長し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上海シャンハイ、英租界の大道路、南京路ナンキンルー中央なかほどのイングランド旅館ホテルの一室で、ラシイヌ探偵と彼の友の「描かざる画家」のダンチョンと葉巻シガーを吹かしながら話している。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
町の恰度中央なかほどの大きい造酒家さかやの前には、往来に盛んに篝火かがりを焚いて、其周囲めぐり街道みちなりに楕円形な輪を作つて、踊が初まつてゐる。輪の内外うちそとには沢山の見物。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その時、谷の中央なかほど轟然ごうぜんたる響きがとどろいた。二道の火気が空に向かって矢のようにすばやく飛んで行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょうど仲店の街路とおり中央なかほどになったところで、右側の横町から折れて来て眼の前に来た女の子があった。それはかの小女こむすめであった。青光あおびかりのするような友禅ゆうぜん模様の羽織はおりの模様がはっきり見えた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その中央なかほどに、紙帳しちょうが釣ってあり、燈火ともしびが、紙帳の中に引き込まれてあるかして、紙帳は、内側から橙黄色だいだいいろに明るんで見え、一個ひとつの人影が、そのおもてに、朦朧もうろうと映っていた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その草原の中央なかほどの枝の禿びた榎の古木のしたに、お諏訪様と呼ばれている蟇の蹲まったような小さな祠があったが、それは枌葺そぎふきの屋根も朽ちて、木連格子の木目も瓦かなんぞのように黒ずんでいた。
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その左側の枝の中央なかほどに一ぴきの蛇が巻きついていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)