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じようきやく
……
聞いて、
眞實にはなさるまい、
伏木の
汽船が、
兩會社で
激しく
競爭して、
乘客爭奪の
手段のあまり、
無賃銀、たゞでのせて、
甲會社は
手拭を
一筋、
乙會社は
繪端書三枚を
景物に
出すと
言ふ。
何時もと
違つて、
乘客の
非常に
少ない
時間に
乘り
合はせたので、
宗助は
周圍の
刺戟に
氣を
使ふ
必要が
殆んどなかつた。それで
自由に
頭の
中へ
現はれる
畫を
何枚となく
眺めた。
其上乘客がみんな
平和な
顏をして、どれもこれも
悠たりと
落付いてゐる
樣に
見えた。
宗助は
腰を
掛けながら、
毎朝例刻に
先を
爭つて
席を
奪ひ
合ひながら、
丸の
内方面へ
向ふ
自分の
運命を
顧みた。