あひる)” の例文
次の日は仲秋節ちゅうしゅうせつ。——史家しけの小作や奉公人は、昼から莚席えんせきの支度に忙しかった。羊をほふあひるや鶏をつぶすこと、何十羽かわからない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一体浪花節語なにはぶしかたりは、首をめられたあひるのやうに、一生に一度出せばよい声を、ざらに絞り出すので誰でもが病的になつてしまふ。
高取は一年間の勤めを了えて、二年兵になったその日に、歩哨に立っている場所を離れてあひるを追っかけまわした。そして軍法会議にまわされた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
さびしい田舎で人珍しいのと、それにこの男の姿がいかにも特色があって、そしてあひるの歩くような変てこな形をするので
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
井戸端に遊んでいたあひるが四羽ばかり口嘴くちばしそろえて、私の方へ「ぐわアぐわア」と鳴いて来ました。忌々しいものです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その跡へ一同続いて、丁度村の子供の跡に付いて、あひるが行列をして行くやうに、一人一人跡先に並んで行くのですね。
北欧セービュルクの物語に、一僕銀白蛇の肉一片を味わうや否や、よく庭上の鶏やあひる鴿はとや雀が、その城間もなく落つべき由話すを聴き取ったとあり。
悦子の好きなえびの巻揚げ、はとの卵のスープ、幸子の好きなあひるの皮を焼いたのを味噌みそねぎと一緒にもちの皮に包んで食べる料理、等々を盛ったすずの食器を囲みながら
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それからまたあひるの飼うてある処を通って左千夫の家に立ちよったが主人はまだ帰らぬという事であった。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
石垣下には、あひるが、がいがいと鳴立てた、が、それはこの川に多い鶺鴒せきれいが、仮装したものではない。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
我々の精神はその身体と同じく生れながらにして活動的である。種々の本能をもっている。鶏の子が生れながらもみを拾い、あひるの子が生れながら水に入るのも同理である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
家のうしろは壁一重にすぐ鶏やあひるの小屋があって、朝夕は中々かしましい。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
と納所部屋から段々庫裏くりから本堂の方へ来ると、本堂のうしろ一寸ちょっとした小座敷がございます、此処こゝにお梅と二人で差向い、畜生めという四つ足の置火燵おきごたつで、ちん/\鴨だかあひるだか小鍋立こなべだての楽しみ酒
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがて雷鳴電光よろしくあって、錨索大いかりづなだいの雨の棒が瀑布落たきおとしに撞々どうどうと来る。さあ、今だ。総員あひるの如くきゃッ/\笑い騒いで、大急ぎで石鹸を塗る、洗う。大洋の真中で大無銭湯が開かれるのだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
市民らはちょうど禿鷹はげたかについてあひるの騒ぐがような調子であった。
そばでは、羽もろくに揃わぬ、べちゃべちゃ云うあひるに見える
あかあかとあひる卵を置いてゆく草場のかげの夏の日の恋
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あひるまぶたでするやうに、えびみづかはな
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
一週間ほどするうちに、それまで、全く枯野だった草原が、すっかり青くなって、草はめばえ、木は枝を伸し、がちょうあひるが、そここゝを這い廻りだした。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
毒なしといえどもすこぶる厄介な代物で、しばしば崖や池を襲い鵞やあひるを殺す。
そこで、一行異形のものは、あひるの夢を踏んで、橋を渡った。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片隅の竹囲いの中には水溜みずためがあってあひるが飼うてある。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
鶏にしゃも、あひるに鴨
あひる追ひつつその卵
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
流れだ、あひる
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)