骨董店こっとうてん)” の例文
そのころよく赤城下あかぎした骨董店こっとうてんをひやかして、「三円の柳里恭りゅうりきょう」などを物色して来ては自分を誘ってもう一ぺん見に行かれたりした。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
昔は狂人をこんな風に残酷に取扱っていたという参考資料として正木先生が柳河やながわ骨董店こっとうてんから買って来られたというお話です。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
掘り出し物をしようとして、骨董店こっとうてんの前に足を留める、老人の心持と違うことは云うまでもない。純一の覗くのは、或る一種の好奇心である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おとこは、ついにまちました。そこには、おおきな骨董店こっとうてんがありました。おとこは、まずそのみせへいってせようとおもいました。
天下一品 (新字新仮名) / 小川未明(著)
西の京の駅を出て、薬師寺の方へ折れようとするとっつきに、小さな切符売場を兼ねて、古瓦ふるがわらのかけらなどを店さきに並べた、侘びしい骨董店こっとうてんがある。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
男はある骨董店こっとうてんで昔ヴニズの影絵芝居で使った精巧な切子きりこ人形を見付け大金を惜まず買取ってやがて仏蘭西ふらんすの旧邸へ帰る。夫婦の仲はだんだん離れて来る。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この間ある雑誌をよんだら、こう云う詐欺師さぎしの小説があった。僕がまあここで書画骨董店こっとうてんを開くとする。で店頭に大家のふくや、名人の道具類を並べておく。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市ヶ谷加賀町から砂土原町のほうへおりる左内坂の途中に、木造建ての小さな骨董店こっとうてんがある。
しかしこの窯のことが私の心を異常に引くようになったのは、もう八、九年も前に村岡景夫君と長崎を旅した時、とある骨董店こっとうてんのうす暗い一隅に大甕おおがめを見出した時からです。
多々良の雑器 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「どこだんね。骨董店こっとうてんやおまへんか。海岸通かいがんどおりの方の骨董店とちがいますか」
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
四カ月半ばかりの後、或人の世話で、優善は本所緑町の安田という骨董店こっとうてん入贅にゅうぜいした。安田の家では主人礼助れいすけが死んで、未亡人びぼうじんまさが寡居していたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
山車だしうえのおじいさんは、両側りょうがわみせをのぞくように、そして、その繁昌はんじょういわうように、にこにこして見下みおろしました。やがて、山車だしは一けん骨董店こっとうてんまえとおりました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その静かな通りには骨董店こっとうてんだの婦人洋服店だのが軒なみに並んでいる。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ちょうど江戸末期えどまっきのころで、ある日本橋辺にほんばしへんあるいていまして、ふとかたわらにあった骨董店こっとうてんって、いろいろなものをているうちに、だいうえいてあったさかずきにがとまりました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)