馬簾ばれん)” の例文
鼓手こしゅ邏卒らそつ馬簾ばれん軍監ぐんかん、乗り換え馬——小荷駄、物見、大荷駄おおにだなど、無慮七千五百騎ばかり、見る者をして頼もしさを抱かせた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
九つ半時に、姫君を乗せたお輿こしは軍旅のごときいでたちの面々に前後をまもられながら、雨中の街道を通った。いかめしい鉄砲、まとい馬簾ばれんの陣立ては、ほとんど戦時に異ならなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「立ん坊か」と云ったまま宗近君は駱駝らくだ膝掛ひざかけ馬簾ばれんをひねくり始めたが、やがて
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同時に、このときを記念して、彼は、黒田家を象徴しょうちょうする軍旗と馬簾ばれんなどを新たに制定した。旗幟はたのぼりの印には、永楽通宝えいらくつうほうを黒地に白く抜き出した。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蕪菁おおかぶら馬簾ばれんを揉んで急襲し、左右から本庄越前守、山吉やまよし孫二郎、色部修理、安田治部などがおめきかかる形をとった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中には、朝陽あさひに向って、馬簾ばれんを打ち振る隊もあり、一斉に槍の穂をさし上げるのも見え、いななく馬の意気までが、すでに北勢明智光秀の軍をんでいた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、時すでに、堀秀政、小川佐平次らの先鋒隊は、狐塚を突破し、ささえに立つ柴田の将士には目もくれず、彼方へはし金幣きんぺい馬簾ばれん一つを各〻目がけて
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこの、どの幕囲のなかに、信玄その人が床几をすえているのか、旗じるしや馬簾ばれんだけを的に捜したのでは分らないほど、同じような幕営がいくつもあった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金瓢きんぴょう馬簾ばれんを中心に、槍の光を並べ、弓をつらね、鉄砲をそろえ、青葉の露の頻りに降る暗い坂道を、一糸のみだれもなく、粛々しゅくしゅくと麓へむかって降りかけていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、山門のわきに立てていた金瓢きんぴょう馬簾ばれんを預って、列の中へ持ちこみ、自身もすぐ馬上になって加わった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてやがて仮城とも見える本丸小屋と無数の陣幕が山上にひらかれ、中央に馬簾ばれん旌旗せいきなどの簇立ぞくりつしている所こそ問わずして、佐久間玄蕃允げんばのじょう床几場しょうぎばと知られる。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奔々ほんぽんひらめく川水は前方に見えるが、柿崎隊の大蕪菁おおかぶら馬簾ばれんや、中軍の中之丸旗、毘沙門旗びしゃもんきのいたずらに啾々しゅうしゅううそぶくばかりで、いつまで経っても馬すすまずへいわたらず
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と一語、麾下きかの士を励ますや、自身、旗、馬簾ばれんなどの先に立ってまっしぐらに、麓口ふもとぐちへ駈け降りていた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見えずにあった金扇の馬簾ばれんがさッと高く揺れあがり、全軍の半分は、田ノ尻へ駈け、のこる半ばの軍勢が、わーっと、声つなみをあげて、この岐阜ヶ嶽へ、せんを取って、攻めてきた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金扇きんせん馬簾ばれんが、ゆらりゆらり、そこから少し山蔭へかくされた頃——ぶつの山腹から裾にかけて、井伊兵部直政いいひょうぶなおまさの赤一色の旗さし物や人数が、岩間岩間を山つつじの花が染めるように
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
部隊部隊の旗じるし馬簾ばれんなどを見ても、また勝頼の前後をかためてゆく旗本たちの分厚ぶあつな鉄騎隊を見ても、甲軍衰えたりとは、どこからも見えなかった。殊に、大将伊那いなろう勝頼かつよりの面上には
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、無量な感慨をもらして、かがや金瓢きんぴょう馬簾ばれんをいつまでも見送っていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)