飽気あっけ)” の例文
旧字:飽氣
れいによりてその飽気あっけなさ加減かげんったらありません。わたくしはちょっとこころさびしくかんじましたが、それはほんの一瞬間しゅんかんのことでございました。
あまりによく知り過ぎている平次の言葉に、岩松は飽気あっけに取られてその顔を眺めておりましたが、思い直した様子で、こう続け出しました。
「おや、こわい、恐いこッた。へん、」と太々ふてぶてしい。血眼ちまなこでもう武者振附むしゃぶりつきそうだから、飽気あっけに取られていた円輔が割って入った。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「本来俺の役目と云えば、住居を突き止めることだけだ。幸い住居は突き止めた。このまま帰っても可い筈だ。……だが何うも少し飽気あっけないな」
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
丑之助は、飽気あっけない顔したが、いわるるまま牛のかしらを向け直した。——と、何処かで、オオーイと呼ぶ声がその時聞えた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川島は、深山幽谷のつもりで跋渉ばっしょうして来たところが、突然、お屋敷の裏庭に飛出してしまった時のような、むしろ飽気あっけなさを覚えながら、下って行った。
植物人間 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
まさかあんなものは出来そうもないと思っていた珍らしい形の結晶、例えば段々鼓や角錐かくすいなども、あんまり簡単に出来てしまって少し飽気あっけない位であった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
おおいに喜ぶかと思いの外、お糸さんはして色を動かさず、軽く礼を言って、一寸ちょっと包みを戴いて、膳と一緒に持って行って了った。唯其切それぎりで、何だか余り飽気あっけなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
文壇の寿命が如何に短かいにしても美妙の人気は余りに飽気あっけなくて線香花火のようであった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
蒼ざめた吉良の顔に、無礼を愛嬌にしている、幇間のような平茂も飽気あっけに取られた。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だのに、この年上の男女たちは、汝自の言葉の間にさっさとこの虹を実現してしまいます。そのあまりの飽気あっけなさにわたくしは却って世の苦労人というものに憎みさえ持つのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
甚七は暫く飽気あっけにとられていた。然し、そう云うと、自分の邸で斬合のあった時
新訂雲母阪 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
一緒になって、さっきの声はありゃ何だとただせば、鹿の声だと無造作である。土の段は。そりゃ奴等の作った寝場所でさあ。これで三十分も私を苦しめた謎の正体も飽気あっけなく解決されてしまった。
鹿の印象 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
マニーロフの方も、すこし飽気あっけにとられた形で相手の顔を眺めていた。
誘ったほうが、飽気あっけにとられる始末だったんですって。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたくしどもとても、幽界ゆうかいはいったばかりの当座とうざは、なにやらすべてがたよりなく、また飽気あっけなくおもわれて仕方しかたがなかったもので……。
その宮様と兄達の裏切りや、一族の大弥太の裏切りからして、このようにあわただしくこのように飽気あっけなく、お別れしなければならなくなったとは!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
各種のメロディを皆同じような調子で歌いとおすのは、学校向きとでも言おうか、少し飽気あっけなくもある。
このようにして色々の結晶の側面写真をとって見ると、平面写真ばかり見ていたのではどうしても分らなかったことが、飽気あっけない位簡単に分って来るのでとても面白かった。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
其儘出て来るのが、何だか飽気あっけなくて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかし、いよいよ別れて見れば、その寂しさその飽気あっけなさ、ひしひしと身を食うばかりである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これで「私の原子爆弾」の話はおしまいである。誠に飽気あっけない話である。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
機を見て構内へ切って入ろうと、構えの外に潜んでいた、熊太郎門下の壮士達が、意外の出来事に飽気あっけにとられ、今はかえって避難の人々を、助けている姿が諸所に見えた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ラシイヌは心でこう思って飽気あっけないような表情をしたが、ダンチョンを抛擲うっちゃっても置けないので、彼を旅宿やどまで運ぶための自動車を探しに街の方へ、大速力で走って行った。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ははあ解った、こうなのだろう。あんまりおれが手っ取り早く、別れ話をいたので、それでお前には飽気あっけなく、やはり月並の別れのように、互いに泣き合おうというのだろう。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もし迂濶うかつに物でも云って、そのため楽しいこの瞬間が永遠に飛び去ってしまったなら、どんなに飽気あっけないことだろうと、こう思ってでもいるかのように、二人はいつまでも黙っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「これでは少しばかり飽気あっけないな。せめて二、三人は叩っ斬りたいものだ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むしろ飽気あっけにとられたような様子で、駕籠から離れてしまいました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「あっ」と銀之丞は飽気あっけに取られた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むしろ飽気あっけないくらいである。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)