飛行ひぎょう)” の例文
仙冠者は稲葉なにがしの弟にて、魔術をよくし、空中を飛行ひぎょうせしとや。仙冠者をわれ嫌うにあらねど、誰か甘んじて国麿の弟たらむ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九輪の尖端には水煙すいえんと称する網状の金属の飾りがついているが、この水煙には飛行ひぎょう奏楽する天女の一群が配してある。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
昔はあめが下の人間も皆しんから水底みなそこには竜が住むと思うて居った。さすれば竜もおのずから天地あめつちあいだ飛行ひぎょうして、神のごとく折々は不思議な姿を現した筈じゃ。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「きさまにも神行法を授けるが、わしが呪文じゅもんをとなえると、たちまち身は雲を踏んで飛行ひぎょうする。じゅを解かねば、止まるにも止まれんのだから、心得ておけよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
南蛮渡来の法術を使い遁甲とんこう隠形おんぎょう飛行ひぎょう自在、まだ弱冠の身でありながら、すで総帥そうすいの器を有し、数年前より御嶽山おんたけさん上にとりでを設けて武威を張る御嶽冠者みたけかじゃと申すお方!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下界の人は山頂も均しく長閑のどかならんと思うなるべし、の三保の松原に羽衣はごろもを落して飛行ひぎょうの術を失いし天人てんにんは、空行くかりを見て天上をうらやみしにひきかえ、我に飛行の術あらば
さばれ爾が尾いまだ九ツにけず、三国さんごく飛行ひぎょうの神通なければ、つひにおぞくも罠に落ちて、この野の露と消えんこと、けだしのがれぬ因果応報、大明神の冥罰みょうばつのほど、今こそ思ひ知れよかし。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
空中を飛行ひぎょうしたり、白日昇天をしたり、いろいろな幻術を現わしていた。
おれ通力つうりきによって八十万里を飛行ひぎょうするのに、なんじの掌の外に飛出せまいとは何事だ!」言いも終わらず觔斗雲きんとうんに打乗ってたちまち二、三十万里も来たかと思われるころ、赤く大いなる五本の柱を見た。
れいどもと山の洞穴のあたりを飛行ひぎょうすることは出来まいか。
毒竜再び策を献じていわく、某に飛行ひぎょう自在の術の候
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
すると驚くべきことに、千手はそのまま翼と化すのだ。翼をひろげた観世音がまさに飛行ひぎょうの姿で佇立ちょりつしている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ところで、天保銭吉原の飛行ひぎょうより、時代はずっと新しい。——ここへ点出しようというのは、くだんの中坂下から、飯田町どおりを、三崎町の原へ大斜めにく場所である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで安先生ひとりだけは、戴宗の飛行ひぎょうの術に抱えられ、先に、山東の空へとけた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といった次第わけで、雪の神様が、黒雲の中を、おおきな袖を開いて、虚空を飛行ひぎょうなさる姿が、遠くのその日向の路に、螽斯ばったほどの小さな旅のものに、ありありと拝まれます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天地を飛行ひぎょうするとか、神出鬼没とかいうのは、あんな男の事ではあるまいか。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
を唄いながら、黒雲に飛行ひぎょうする、その目覚しさは……なぞと、町を歩行あるきながら、ちと手真似で話して、その神楽の中に、青いおかめ、黒いひょっとこの、扮装いでたちしたのが
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)