飛礫つぶて)” の例文
はっと、飛礫つぶてを投げられたようなもので、息をつめてから、岡部はいきなり立上って、お幾の横をすりぬけながら慌てて降りていった。
常識 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
飛礫つぶてにひるまぬ賊が、闇の木立を縫って飛ぶ様に逃げて行く。追われる者も追う者も森を離れ、夜更けの町を黒い風の様に走った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
気息充分籠もると見て一度にさっと切って放す。と、あたかも投げられた飛礫つぶてか、甲乙なしに一団となり空を斜めにけ上った。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その時、飛行機は、どこかに弾丸を受けたらしく、がくんと一度大きくあおられたと思うとたん、機首を下にして、飛礫つぶてのように落下し始めた。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
首尾しゅびよく、わしぬすみをやった泣き虫の蛾次郎がじろう、その上にあって、細竹ほそだけつえを口にくわえ、右手に飛礫つぶてをつかんで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は飛礫つぶてを打つことが好きであった。非常に高い樹のてっぺんには、ことに杏などは、立派な大きなやつがあるかぎりの日光に驕りふとって、こがね色によく輝いていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
心配気に額部ひたいを曇らせて、千浪がそっと、戸外そとのやみに眼を配るとき、風は、いつの間にか烈しくなっていて——ぱら、ぱら、ぱらと屋根を打つ飛礫つぶてのような雨の一つ、ふたつ。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
むろんこちらからも可なりせっせと葛岡にだけは催促のため手紙は出しますものゝこれもおきみにポストへ持って行かせるより仕方がありませんから途中でどうなりますことやら梨の飛礫つぶてと申しましょうか
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
翁の打つ飛礫つぶては雨の如くなりき。
痛き飛礫つぶてに目ふさげば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「ナニ、武芸は飛礫つぶてとな? そして年齢は四十四、五。してしてその男の右の頬に薄い太刀傷はございませんでしたか?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、闇の中から、「手を挙げろハンド・アップ‼」春田少年なにくそッと、身を沈めるとみるや声のした方へ飛礫つぶてのように突掛つっかかった。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お艶の影を認め次第飛礫つぶての雨を降らせるようにと番頭小僧へ厳命を下しておいたが、その結果は、小石の集まる真ん中でお艶をして唯一得意の「お茶漬さらさら」をやらせるに止まり
と——思うと蛾次郎は、ふいに五、六けんほどとびさがって、足もとから小石をひろった。卑怯ひきょう! 飛礫つぶてをつかんだな! と見たので竹童も、おなじように大地のものを右手につかんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう云って肩肘を怒らせたのは、頭を青く剃りこぼち袈裟けさまとった大入道で、これぞ飛礫つぶての名人として浪人組の中にあっても相当かみに立てられる男。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三人はゆうべ出たっきり梨の飛礫つぶてだし、けさ聞けば蓑賀はたしかに剥がれてる、てっきり謀反気を起こしてずらかったと思うから、こっちは三人の名を
蛾次郎がさいごの力をこめた飛礫つぶてがピュッと、燕作のこめかみにあたったので、かれは、急所の一げきに、くらくらと目をまわして、竹童のからだを横にかかえたまま、粘土ねんど急坂きゅうはんみすべって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝等おのれら来るか!」と物凄い声がふたたび森林から聞こえたが、すぐにバラバラバラと飛礫つぶてが雨のように降って来た。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
片方がいきなり椅子を掴んで投げつけた、身を沈めてそらす、「畜生‼」といいざま飛礫つぶてのように組付くみついた。
黒襟飾組の魔手 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
切先鋭いつるぎ飛礫つぶて! それを打ち払った木太刀のえ! ウーム、迂濶うかつには見遁がせぬわい! あの幻々の木太刀の冴えを会得することが出来たなら
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや驚いたのなんの、さすが無頼の伝吉も胆を消して、飛礫つぶてのように屋敷外へ逃去ってしまった。
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
四方の木々から庭を目がけ、飛礫つぶてのように十、二十、百、二百と無数の猿が、飛び下り馳け下りまろび落ちて来た。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
若い武士は湯沢のほうへ飛礫つぶてのように走って行ったが、追手はすぐに追いついたらしい。
峠の手毬唄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奴姿やっこすがたの大男が人家の軒から投げた飛礫つぶてが若衆の危難を救ったのである。若衆は刀を投げ捨てると、飛燕のように飛び込んで行った。手弱女を膝下に抑えたのである。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
飛礫つぶてのように叩きつける雨、悲鳴をあげて吹き荒れる烈風のほかには、殆んど一尺先の物をみわけることもできないのだ。その闇の中を、巨大な、えたいの知れないものが近づいて来る。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
切ろうとした一刹那風を切って、浪之助の投げた石飛礫つぶてが、陣十郎の額へ来た。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とたんに怪鳥は、鉄柵を乗越え、飛礫つぶてのように海上めがけて身を投じた。
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
とつぜん絶叫があがり、益山が飛礫つぶてのように斬り込んだ。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)