韃靼だったん)” の例文
けだし燕の兵を挙ぐるに当って、史これを明記せずといえども、韃靼だったんの兵を借りてもって功を成せること、蔚州いしゅうを囲めるの時に徴して知る可し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ビーチャム卿の指揮した『イゴール公』の「韃靼だったん人の舞曲」(J八六五八—五九)は、とにもかくにも通俗的な面白さがあろう。
その屋台店の主人は顔の黒い韃靼だったん人で、通りがかった伸子をきつい白眼がちの眼でじろりと見て、壺から真黄い粟のカーシャをたべていた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
このいいお天気に、またしても韃靼だったん人の襲来だ! イワンは石投げの支度にかかり、ナタアシャは小猫を抱いて泣いている。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
このおそるべき韃靼だったん族が一たび訓練を経て文明的に軍隊を組織したならば、如何いかなる優勢の大軍をも編成し得ると思った。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
こういう顔は、よくコーカサス人や韃靼だったん人の混血児にある。それが、晦冥国の女王なんて神話めいたことで、俺を釣ろうなどとは、大それた奴だ。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
アラビヤ、韃靼だったん等牧畜業の盛なる地方においては、獣乳が主要なる食物であるため、これを種々の物に製するのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
大宋国たいそうこくの北から東の大山脈をさかいとして、その彼方の蕃地ばんちにはりょう韃靼だったんのわかれで契丹きったんともよぶ)という大国がある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はそれを言って、元来シナは富んでいたが、こんな事でいよいよ衰えた。先年韃靼だったんとの戦争でさらに力を失った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは支那で羔子カオツェと俗称し、韃靼だったん植物羔ヴェジテーブル・ラムとて昔欧州で珍重された奇薬で、地中に羊児自然と生じおり、狼好んでこれを食うに傷つけば血を出すなど言った。
彼は馬術については知識も腕前も大したもので有名だった。馬に乗ればそのたくみなことは韃靼だったん人さながらだった。競走や闘鶏にはいつでも第一位を占めた。
低い灌木の樫のしげった台地になっている所は西部の大草原プレーリーにも韃靼だったんのステップ草原にもつづくかと思われ
蝦夷えぞ韃靼だったん天竺てんじく高砂たかさごや、シャムロの国へまで手を延ばして、珍器名什を蒐集することによって、これまた世人に謳われている松平碩寿翁せきじゅおうその人なのであった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「誰だか、何だか、海坊主でもい上ったもんらしいぜ。これからそろそろ韃靼だったん海だからね。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一人は薄色髪の背の高い男で、もう一人は、それより少し背が低くて髪が黒かった。薄色髪の方は、濃紺のハンガリー服をており、髪の黒い方は、あたりまえの縞の韃靼だったん外套を羽織っていた。
韃靼だったんの海を前にして、海岸線にそうた一本道の町であった。
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
一つ置いてむこうの車室は韃靼だったん人の一行が占領している。兎のような赤い眼をした六尺あまりのおやじとその家族である。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
すれ違う連中の八分通りはトルコ帽をかぶったペルシア人、韃靼だったん人である。耳の長い驢馬がふりわけに籠をつけて、小さい蹄に石ころ道を踏んで行く。
石油の都バクーへ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
天主僧ジャービョン西韃靼だったんに使した時、大喇嘛の使者かようの粉一袋を清帝に献ぜんと申し出て拒まれた由。
欧州近世文明の活動がその力を及ぼすこと少なく、また亜細亜アジアに接近しておっても、印度インド、支那の如き文明国でなくて韃靼だったん種族の如き野蛮民族であったからして
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
景隆けいりゅう師を出してこれを救わんとすれば、燕王は速く居庸関きょようかんより入りて北平ほくへいかえり、景隆の軍、寒苦に悩み、奔命に疲れて、戦わずして自ら敗る。二月、韃靼だったんの兵きたりて燕を助く。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
むかし、蔡邕と交わりを深めていた頃の話であるが、蔡邕に蔡琰さいえんという娘があった。縁あって、衛道玠えいどうかいに嫁いだが、韃靼だったん生虜いけどられ、えびすのために無理に妻とせられてしまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その横文字の看板の、そのまた屋根の、町並の上の近くは濃く青く、はるばると末はくらんだ韃靼だったん海である。またいくらか薄い空の青みである。へりは陰って白い寒い雲の流れである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼はれた岩の上に腰をおろし、韃靼だったん人のやりほどもある長くて重い釣竿つりざおをもって、日がな一日釣をして、ぶつりとも言わず、たとえ魚がいっぺんも食いつかなくても、まったく平気なのだ。
食事がすむと、頭をすっかり韃靼だったん風の丸剃りにした技師をはじめ居合わせた人々が、朝子に握手して悔みをのべた。
おもかげ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
永楽元年には、韃靼だったんの兵、遼東りょうとうを犯し、永平えいへいあだし、二年には韃靼だったん瓦剌わら(Oirats, 西部蒙古)とのあい和せる為に、辺患無しといえども、三年には韃靼の塞下さくかを伺うあり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
即ち二百年以来、蒙古がかつて露西亜ロシアに侵入して撃退された以来、反対にコサックが蒙古に入る。ペートル大帝以降絶えず露国の人民は外蒙古に於て蒙古人、韃靼だったん人と触接している。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ウクライナのお百姓が韃靼だったん人に、「ちょっくらものを伺いますだが」をやったり、その韃靼人が首を振ってにやにや笑ったり——私のところへも仏蘭西フランス語で何かきにきたやつがある。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
天主僧ガーピョンの一六八八より一六九八年間康煕帝の勅を奉じ西韃靼だったん
あ、黒い黒い韃靼だったん海。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
眼玉の大きい韃靼だったんの血の混った娘リディア・セイフリナはそのころは二十前後で、タシュケントやウラジ・カウカアズ、オレンブルグなどで舞台にたっていた。
緑色の円い韃靼だったん帽をかぶった辻待ち橇の馭者が、その人だかりを白髯のなかからながめている。
モスクワ印象記 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)