雨合羽あまがっぱ)” の例文
二円五十銭の月賦で、この間拵えた雨合羽あまがっぱの代を、月々洋服屋に払っている夫も、あまり長閑のどかな心持になれようはずがなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
米俵のまま、二枚の毛布につつみ、その上を、雨合羽あまがっぱでよく包んで、大きな木の米びつにいれてしっかりふたをした。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
ナイアガラ見物の際に雨合羽あまがっぱを着せられて滝壺たきつぼにおりたときは、暑い日であったがふるえ上がるほど「つめたかった」だけで涼しいとはいわれなかった。
涼味数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
折からのざんざぶりで、一人旅の山道に、雨宿りをする蔭もない。……ただ松の下で、行李こうりを解いて、雨合羽あまがっぱ引絡ひきまとううちも、そでを絞ったというのですが。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸、それには好適の古羽織が一枚ある、これは全部三味線糸で織ったもので、重さは普通木綿の二三倍もある、雨合羽あまがっぱ代用などにしながら持て余していた。
雨合羽あまがっぱ蓑笠みのかさ、洋傘、番傘、わらじ、足駄穿あしだばきなどの泥だらけな群集に、女子供や老人たちまでじって、物珍しげに、私たちの自動車は取り囲まれてしまう。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さわは納戸口から土間へおり、ゆわい付け草履をはいて、弟の雨合羽あまがっぱを頭からかぶった。家の中は走りまわる雇人たちでごった返し、どこかで父のどなる声も聞えた。
榎物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
きゅうは闇の中を眺めていた。点燈夫の雨合羽あまがっぱひだが遠くへきらと光りながら消えていった。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
小男は、木綿藍縞もめんあいじま浴衣ゆかたに、小倉の帯を締め、無地木綿のぶっさき羽織を着、鼠小紋の半股引はんももひきをしていた。体格の立派な方は、雨合羽あまがっぱを羽織っているので、服装は見えなかった。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
深い饅頭笠まんじゅうがさ雨合羽あまがっぱを着た車夫の声が、車軸しゃじくを流す雨の響きの中に消えたかと思うと、男はいきなり私の後へ廻って、羽二重はぶたえの布を素早く私の両眼の上へ二た廻り程巻きつけて
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ボロ船だ、それア!」——浅川が雨合羽あまがっぱを着たまま、すみの方の椅子に大きくまたを開いて、腰をかけていた。片方の靴の先だけを、小馬鹿にしたように、カタカタ動かしながら、笑った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
みさかいもなく兵隊式の帽子を彼の頭にのせ、彼の着ていた外套を無理に脱がせ、青年団式の雨合羽あまがっぱを着せた。彼は自分の心に逆らいながら、力ずくの反抗を敢てするだけの気力がなかった。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
まっ黒い雨合羽あまがっぱを、頭からすっぽりとかぶった、二人の人影である。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
三人が車を並べて停車場ステーションに着いた時、プラットフォームの上には雨合羽あまがっぱを着た五六の西洋人と日本人が七時二十分の上り列車を待つべく無言のまま徘徊はいかいしていた。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼は頭から雨合羽あまがっぱをかぶっていた。家士の物を借りたのだろう。雨はいまこの小屋の高い板屋根にやかましい音をたてるほど降りだし、しかも地雨のようであった。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いくら雨合羽あまがっぱをきていても、だめだ。着かえていたら、きりがない。また、何枚も着がえを持っていない。任務を交代して、水夫部屋へさがってもぬれたままねるのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
見れば島田まげの娘の、紫地の雨合羽あまがっぱに、黒天鵝絨びろうどの襟を深く、拝んで俯向うつむいたえりしろさ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黒い雨合羽あまがっぱを着た男——趙の声だ。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
雪はまだ降り続いてい、彼は雨合羽あまがっぱかさをかぶっていたが、その町へはいるまえに頭巾で顔を包んだ。指定されたのは「伊勢屋」という旅籠はたごだったが、そこにはさくらはいなかった。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
吉塚夫妻の世話だろう、娘は雨合羽あまがっぱを着、脚絆きゃはんに草鞋ばきで、背中へ斜めに小さな包を結びつけ、唐傘からかさをさしていた。門から出たところで、ちょっと左右を眺め、すぐにこっちへ歩いて来た。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)