雑踏ざっとう)” の例文
旧字:雜踏
瞬間、急に戸外が騒々しくなってきて、無数の小さな地響きが戸口を目掛けて雑踏ざっとうして来た。万夫婦は、思わず戸口の方へ眼をやった。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
喧嘩渡世の看板に隠れ、知らずのお絃の嬌笑きょうしょうきもたまを仲に、ちまた雑踏ざっとうから剣眼けんがんを光らせて、随時随所に十七人の生命をねらうことになった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして、もう、そのひとたちの雑踏ざっとうしているなかけて、公園こうえんや、名所めいしょや、方々ほうぼう建物たてもの見物けんぶつあるいている、みずからの姿すがたえがいていたのです。
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「天邪鬼」の主人公は雑踏ざっとうの往来で自分の殺人罪を大声にわめき出すことを、どうしてもやめられなかったのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
駐蔵ちゅうぞう大臣の盛粧せいそう せっかくの盛大な供養を何で僧侶に見せぬかといいますと、この時にはラサ府の市民が沢山見物に出かけて来ますので非常に雑踏ざっとうするです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
荻生さんは危篤きとくの報を得て、その国旗と提灯と雑踏ざっとうの中を、人を退けるようにして飛んで来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
赤いのがその店の看板か、しかし、安くていい品を売るので、私も大いにここを愛用?している。山の手の会社員風の人が常に雑踏ざっとうしてものを買っている。かめ屋は古い。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
募集要項ぼしゅうようこう末尾まつびに印刷されている道順だけをたよりに、東京駅や、上野駅や、新宿駅の雑踏ざっとうをぬけ、池袋いけぶくろから私鉄にのりかえて、ここまでたどりつくのは、かれらにとって
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
例の芸者や雛妓おしゃくやかみさんや奥さんや学生や紳士や、さま/″\の種類階級の人々のぞろ/\渦を巻いた、神楽坂独特の華やかに艶めいた雑踏ざっとうの中を掻き分けながら歩いていた光景は
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
外は例によって雑踏ざっとうしている。電車に乗ってから、祐助君は
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一度は全く出入口のない、密閉されたうちの中へ、風のように忍び込み、一度は衆人環視の雑踏ざっとうの場所で、数百人の目をかすめて、通り魔の様に逃れ去った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吾妻橋あづまばしから木母寺もっぽじまで、長いつつみに、春ならば花見の客が雑踏ざっとうし、梅屋敷うめやしきの梅、夏は、酒をつんでの船遊び——。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの雑踏ざっとうでは外から来たものが内部まで入って見ることはとても不可能であったのであった。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あるまちかどのところで、電車でんしゃ自動車じどうしゃとが衝突しょうとつしました。自動車じどうしゃはもはや使用しようされないまでにこわされ、電車でんしゃもまた脱線だっせんして、しばらくは、そのあたりは雑踏ざっとうをきわめたのであります。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
竹の台からおりると、前に広小路の雑踏ざっとうがひろげられた。馬車鉄道があとからあとからいく台となく続いて行く。水撒夫みずまきがその中を平気で水をまいて行く。人力車がけ声ではしって行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
文名が高まれば高まる程、あのみっともない肉体が、益々恥しくなって来る。そこで友達も作らず訪問者にも逢わないで、そのうめ合せには夜などコッソリ雑踏ざっとうちまたをさまようのじゃないでしょうか。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
灯のつきそめた都の雑踏ざっとうにまぎれこんでいた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)