鉢植はちう)” の例文
しんぱくは、人間にんげんえらいとおもいました。ここへくるひとたちは、だれでも、この鉢植はちうえのまえあしをとめて、感心かんしんして、ながめました。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとえばある彫刻家などは大きい鬼羊歯おにしだ鉢植はちうえの間に年の若い河童かっぱをつかまえながら、しきりに男色だんしょくをもてあそんでいました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生きてあるままの姿を御眼の前にながめてお楽しみなさるためにはじめた事で、わしたち下々の者が庭の椿つばきの枝をもぎ取り、鉢植はちうえの梅をのこぎりで切って
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
鉢植はちうえのつるばらがはやると見えて至るところの花屋の店に出ている。それが、どれもこれも申し合わせたようにいわゆる「懸崖けんがいづくり」に仕立てたものばかりである。
錯覚数題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし鉢植はちうえの花の場合でさえ、人間の勝手気ままな事が感ぜられる気がする。何ゆえに花をそのふるさとから連れ出して、知らぬ他郷に咲かせようとするのであるか。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
小さな薔薇ばら鉢植はちうえを持っていたが、それも忘られて室の片すみに枯れしぼんでいた、他の片すみにはバタ用のつぼがあって水がはいっていたが、冬にはその水が凍って
それでも、アナトール・フランスの温室の中にえ出てる橙樹オレンジ鉢植はちうえ、パレスの魂の墓地にのぞき出てる繊細な水仙花すいせんか、それらの前に彼はしばらく足を止めて珍しげにながめた。
「そうだ、その花だ。切花きりばなでもいい。鉢植はちうえでもいい。これは理窟に合っているぜ」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みちから庭や座敷がすっかり見えて、篠竹しのだけの五、六本えている下に、沈丁花じんちょうげの小さいのが二、三株咲いているが、そのそばには鉢植はちうえの花ものが五つ六つだらしなく並べられてある。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
トックは右の手にピストルを握り、頭の皿から血を出したまま、高山植物の鉢植はちうえの中に仰向あおむけになって倒れていました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あるおとこが、縁日えんにちにいって、植木うえきをひやかしているうちに、とうとうなにかわなければならなくなりました。そして、無花果いちじく鉢植はちうえをいました。
ある男と無花果 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ジャン・プルーヴェールは情緒じょうちょ深く、鉢植はちうえの花を育て、笛を吹き、詩を作り、民衆を愛し、婦人をあわれみ、子供のために泣き、未来と神とを同じ親しみのうちに混同し、気高き一つの首を
これまで花屋で鉢植はちうえの草花などを買う時に、この花は始終に目をつけていたにかかわらず、いざ買うとなると、どういうものか、自分にはわからない不思議な動機でいつも他の花を買うのであった。
球根 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは山桃やまもも鉢植はちうえを後ろに苦い顔をしていたペップの言葉です。僕はもちろん不快を感じました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんなこともらず、おじょうさんは、木枯こがらしのばんに、まどのところで、ピアノをいていました。ストーブのそばには、つちやぶったばかりのヒヤシンスの鉢植はちうえがいてありました。
寒い日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)