鉄鞭てつべん)” の例文
やがて彼は鉄鞭てつべん曳鳴ひきならして大路を右に出でしが、二町ばかりも行きて、いぬゐかたより狭き坂道の開きたるかどに来にける途端とたんに、風を帯びて馳下はせくだりたるくるま
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
中にに乗っている二、三の賊将が鉄鞭てつべんして、何かいっていたように見えたが、やがて、馬元義の姿を見かけたか、寺のほうへ向って、一散に近づいてきた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と間もなく、大男の四十ぐらいの中尉が、帽子もかぶらず半ズボンで、鉄鞭てつべんを持って出て来た。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
あたかもかの士官が兵士を指揮するがごとく、かの不慈悲にして残忍なる官吏は鉄鞭てつべんを揮い、これを苛責かしゃくし、これを強迫し、なんの容赦かこれあらん。なんの会釈かこれあらん。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
やっぱり「手に鉄鞭てつべんを執ってキサマを打つぞ」なんだろう。そう思うと彼は手を挙げたくなったが、考えてみるとその手は縛られていたのだ。そこで「手に鉄鞭を執り」さえもとなえなかった。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
いかに孟賁烏獲もうほんうかくの腕力に富むもその勢いを制するを得んや。ローマ社会の文弱におもむくや、いかに老カトーがこれを怒罵どばし、これを叱咤しったし、その鉄鞭てつべんを飛ばすもこれをいかんせんや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人の世はみつあしたより花の昼、月のゆふべにもそのおもひほかはあらざれど、勇怯ゆうきようは死地にりて始てあきらかなる年の関を、物の数ともざらんほどを目にも見よとや、空臑からすねゑひを踏み、鉄鞭てつべん
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
一に弓、二につよゆみ、三にやり、四に刀、五に剣、六に鍵矛かぎほこ、七にたて、八におの、九にまさかり、十にげき、十一に鉄鞭てつべん、十二に陣簡じんのたて、十三に棒、十四に分銅鎌ふんどうがま、十五に熊手くまで、十六に刺叉さすまた、十七に捕縄とりなわ、十八に白打くみうち
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うたづる時、一隊の近衛騎兵このえきへい南頭みなみがしらに馬をはやめて、真一文字まいちもんじに行手を横断するに会ひければ、彼は鉄鞭てつべんてて、舞立つ砂煙すなけむりの中にさきがけの花をよそほへる健児の参差しんさとして推行おしゆ後影うしろかげをば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この時において薪を加えずして火を吹かんとす、これ火を吹くにあらず、死灰をらすなり。疲馬に鉄鞭てつべんを加えて、以て快奔かいほんせしめんと欲す、これ快奔せしむるにあらず、これ疲馬を殺すなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)