郎女いらつめ)” の例文
私の女主人公南家なんけ藤原郎女いらつめの、幾度か見た二上山上の幻影は、古人相共に見、又僧都一人の、之を具象せしめた古代の幻想であった。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
この天皇は穗積ほづみの臣の祖先、タケオシヤマタリネの女のオトタカラの郎女いらつめと結婚してお生みになつた御子はワカヌケの王お一方です。
「ああ郎女いらつめよ。ひどくくと人が聞いてわらいそしる。羽狹はさの山のやまばとのように、こっそりとしのび泣きに泣くがよい」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
僕はあそこを読んでからは女の手らしい古い写経を見るごとに、あの藤原の郎女いらつめの気高くやつれた容子ようすをおもい出して、何んとなくなつかしくなる位だ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「時にはなりぬ」だけで詠歎えいたんのこもることはすでにいった。佐保の宅というのは、郎女いらつめの父大伴安麿やすまろの宅である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
生命はとどこおるところなく流動する。創造の華が枯木にも咲くのである。藤原南家の郎女いらつめ藕糸はすいとつむいで織った曼陀羅まんだらから光明が泉のようにきあがると見られる暁が来る。
藤原南家の郎女いらつめ中将姫の伝説を小説化したもの、というよりも長詩と言った方がよいが、あの時代の人のこころが直接に感得されるような気がして、何度読んでも夢はますます美しくなる。
『死者の書』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
郎女いらつめ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
かれ高木の入日賣の御子、額田ぬかだ大中おほなか日子ひこの命、次に大山守おほやまもりの命、次に伊奢いざの眞若の命、次にいも大原の郎女いらつめ、次に高目たかもくの郎女五柱。
で御座りますが、郎女いらつめのお行くえも知れ、乳母もそちらへ行ったとか、今も人が申しましたから、落ちついたので御座りましょう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
藤原仲麻呂ふじわらのなかまろがその家持と支那文学の話などに打ち興じながら、いつか話題がちかごろ仏教に帰依した姪の郎女いらつめのうえに移ってゆく会話なども、いかにもいきいきとしていたな。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
天皇はそれといっしょに、八田若郎女やたのわかいらつめにおいとまをおつかわしになりました。しかしそのかわりには、郎女いらつめの名まえをいつまでも伝え残すために、八田部やたべという部族をおこしらえになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
南家なんけ郎女いらつめは、一茎の草のそよぎでも聴き取れる暁凪あかつきなぎを、自身みだすことをすまいと言う風に、見じろきすらもせずに居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そこでタカギノイリ姫の生んだ御子みこは、ヌカダノオホナカツヒコの命・オホヤマモリの命・イザノマワカの命・オホハラの郎女いらつめ・タカモクの郎女いらつめおんかたです。
其で、今日昼の程、奈良へ向けて早使はやづかひを出して、郎女いらつめの姿が、寺中で見出された顛末を、仔細に告げてやつたのである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
次に沼代ぬなしろ郎女いらつめ、またのみめの御子、沼名木ぬなき郎女いらつめ、次に香余理かぐより比賣の命、次に若木わかき入日子いりひこの王、次に吉備の兄日子えひこの王、次に高木比賣の命、次に弟比賣おとひめの命。
「朝目よく」うるわしいしるしを見た昨日は、郎女いらつめにとって、知らぬ経験を、後から後からひらいて行ったことであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
次に田井たゐの中比賣、次に田宮たみやの中比賣、次に藤原の琴節ことふし郎女いらつめ、次に取賣とりめの王、次に沙禰さねの王七柱。
南家なんけ郎女いらつめの手に入つた称讃浄土経も、大和一国の大寺と言ふ大寺に、まだ一部も蔵せられて居ないものである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
この天皇、葛城かずらきのソツ彦ののアシダの宿禰の女の黒姫くろひめの命と結婚しておみになつた御子みこは、いちのオシハの王・ミマの王・アヲミの郎女いらつめ、又の名はイヒトヨの郎女のお三かたです。
衣通そとおり媛の藤原郎女いらつめであり、禊ぎに関聯した海岸にり、物忌みの海藻の歌物語を持ち、また因縁もなさそうな和歌浦の女神となった理由も、やや明るくなる。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
かう彼女性によしやうは思つてゐる。だが其よりも大事なことは、此郎女いらつめ——貴女は、昨日の暮れ方、奈良の家を出て、こゝまで歩いて来てゐるのである。其も唯のひとりであつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)