遣取やりとり)” の例文
敵意のあるものなら、手紙を遣取やりとりするのも少し変ではないか、こう叔父が混返まぜかえしたのが始まりで、お俊は負けずに言い争った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何人なんぴとに断って、おれの妻と手紙の遣取やりとりをする。一応主人たるべきものに挨拶をしろ! 遣兼ねやしない……地方いなかうるさいからな。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
更に繰返すと『其面影』の面白味は近代人の命の遣取やりとりをするくるしみの面白味でなくて、渋い意気な俗曲的の面白味であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大通りの角で立談たちばなしをしていた二人の姿と、ここへ来てからの小林の挙動と、途中から入って来た原の様子と、その三人の間に起った談話の遣取やりとりとが
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
嫁婿の遣取やりとりも二度や三度でなかつたと言ふ。盛岡の城下を引掃ひきはらふ時も、両家で相談した上で、多少の所有地もちちのあつたのを幸ひ、此村に土着する事に決めたのださうな。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お村は立って戸棚から徳利とくりを出して、利休形の鉄瓶てつびんへ入れて燗をつけ、膳立をして文治が一杯飲んではお村にし、お村が一杯飲んで又文治にし、さしつ押えつ遣取やりとりをする内
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
日本を天下第一の最良国とすべき法を論ずれば「カムサスカ」の土地に本都をうつし、西唐太からふと島に大城郭を建立し、山丹、満州と交易して有無うむを通じ、その交易に金銀を用いず品物同士の遣取やりとりなれば
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あの、親の体の内から迫り出て、遣取やりとりをして
第一として人のがいならぬ氣にても金子の遣取やりとり致し商賣あきなひ手廣てびろき事なれば如何なる所に遺恨ゐこん有間敷あるまじき者にも非ず又其外にもなんぞ手掛りは無きと云るゝに平吉ヘイ其手掛てがかりと申てはべつに御座らねども爰に少々せう/\心當り是とても右樣の儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
昼間腕車くるまが壊れていましょう、それに、伊予紋で座がきまって、杯の遣取やりとりが二ツ三ツ、私は五酌上戸だからもうふらついて来た時分、女中が耳打をして、玄関までちょっとお顔を
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその後はまたどうしても聴いていられなかった。先刻さっきから一言葉ひとことばごとに一調子ひとちょうしずつ高まって来た二人の遣取やりとりは、ここで絶頂に達したものと見傚みなすよりほかにみちはなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「で、叔父さん、Uさんが言うには、考えて見れば橋本さんも御気の毒ですし、ああして唯孤独ひとりで置いてもどうかと思うからして、せめて家族の人と手紙の遣取やりとり位はさせてげたいものですッて」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朋友なる給水工場の重役の宅で一盞いっさんすすめられて杯の遣取やりとりをする内に、めとるべき女房の身分に就いて、忠告と意見とが折合ず、血気の論とたしなめられながらも、耳朶みみたぶを赤うするまでに
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)