退しざ)” の例文
村田が立って行くと、お清は四、五歩退しざって、戸の外に出て来た村田の横をつとすりぬけ、室の中にはいり込んで、がたりと扉を閉めた。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかはあれ、神の聖旨みむねによりてヨルダンの退しざり海の逃ぐるは、救ひをこゝに見るよりもなほあやしと見えしなるべし。 九四—九六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
まず、初めは、「近頃流行の安来節やすぎぶし」と手前口上で、一歩ひとあし退しざると、えへんとやったものだ。さて、この海軍参謀、ちょんがらちょっぴりの小男でござい。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
と青眼先生はよろよろとあと退しざりをして、きっと身構えをして女王の顔を穴の明く程見詰めました——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
余吾之介は、その両脇に手を差し入れて、ソッと抱き起すと、少し退しざり加減に苦い顔をしました。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼は退しざりながら口の中でつぶやいた。「どうしたっていうんだろう?」そして彼は言い添えた。
一人の宗匠頭巾そうしょうずきんの、でっぷりした、黒い十徳じっとくすがたの老人と、それに並んで、いくらか、身を退しざらせている、限りなく艶麗えんれいな、文金島田の紫勝ちないでたちの女性とを見る。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
豆府屋の親仁おやじが、売声をやめて、このきらびやかな一行に見惚みとれた体で、背後あとに廻ったり、横に出たり、ついて離れて歩行あるくのが、この時一度うしろ退しざった。またこの親仁も妙である。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二郎はまるで幽霊にでも出会った様な恐怖の表情で、あとへあとへと退しざって行った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さすがの葉子も胸をどきんとさせて思わず身を退しざらせた。「おーい、おい、おい、おい、おーい」……それがその瞬間に耳の底をすーっと通ってすーっと行くえも知らず過ぎ去った。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『——えびへて、順々じゆん/″\あと退しざつてる』とグリフォンがつゞけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ややあって、米友はものの五間ほど一散に飛び退しざりました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は畳の上に退しざり、おかみは縁に腰かけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ひとりいふ、クリストの受難の時は、月退しざりて中間なかへだてしため、日の光地に達せざりきと 九七—九九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
木原藤次は思わず一歩後に退しざった。そして男の様子をじろじろ見調べながら云った。
電車停留場 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すわやと、おどろいて、退しざろうとする助次郎の肩先に
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ものの五間ほど飛び退しざってから、やや暫らくして
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おづおづと退しざる。あはれ男子をのこ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
つるは一歩退しざりながら、顔をふくらして竈の前に屈み込んだ。
特殊部落の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)