辻駕籠つじかご)” の例文
親の代から長屋で成長し、現在では共同して辻駕籠つじかごかついでいる銀太と金太という二人の若者は、中んずく斯様かように公言しておった。
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もなく横山町辺よこやまちょうへんの提灯をつけた辻駕籠つじかご一梃いっちょう、飛ぶがように駈来かけきたって門口かどぐちとどまるや否や、中から転出まろびいづ商人風あきうどふうの男
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
到底このままには見過ごし難いから、あとをつけると、くだんの覆面は人混みに紛れて、見返り柳をくぐり土手へ出て、暫く行くと辻駕籠つじかごを呼びました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おおきくうなずいた伝吉でんきちは、おりからとおあわせた辻駕籠つじかごめて、笠森稲荷かさもりいなり境内けいだいまでだと、酒手さかてをはずんでんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
まもなく、途中ですっかり夜が明けはなれたので、疲れきったお露は、通りかかった辻駕籠つじかごを呼び止めて、早朝の女の一人歩きにいぶかしげな顔をしている駕籠かきへ
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お駒に取次がせたのは、この辺に網を張って、吉原へ通う客を拾う辻駕籠つじかごの若い者、——といったところで、四十過ぎの世帯しょたい疲れの目立つ、不景気な駕籠屋が二人でした。
東京とうきやう四萬よまんかずおほいやうだけれども、ころにしろ府下ふか一帶いつたい人口じんこうくらべては、辻駕籠つじかごほどにも行渡ゆきわたるまい、しかいつげつ税銀ぜいぎん八匁はちもんめ人力車じんりきしやである。なか/\もつ平民へいみんにはれさうにおもはれぬ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ついそこに辻駕籠つじかごがいる筈だ、ちょいと呼んで来てあげましょう
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「むさし屋」という屋号になにか記憶があるようだったが、お倫を押えるほうが先だと思い、そのまま辻駕籠つじかごをひろって本郷へとばした。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
櫛まきお藤のさしがねで、刀渦とうかにまぎれ、巧妙にお艶の身柄をさらい出した源十郎は、深夜の往来に辻駕籠つじかごを拾ってまんまと本所の家へ運びこんだまではよかったが……。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まもなく、この家をいくらも離れないところで、辻駕籠つじかごを呼ぶ同じ人の姿を見かけます。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
道の角で辻駕籠つじかごをひろい、船松町の河岸で島へゆく渡し舟に乗った。島へあがると門番所をたずね、岡安喜兵衛に面会を求めた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それに呼ばれて朦朧もうろう辻駕籠つじかご
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ぼんやりと一丁ばかりいったとき、うしろから辻駕籠つじかごが来て声をかけた。お安くまいりましょう、と云われ、ついそのまま乗ってしまった。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつもならそんな浪費はしないのだが、辻駕籠つじかごをひろい、駄賃をはずんでいそがせた。——平河町には多賀勘右衛門がいた。
末っ子 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
竹造を養生所へ帰らせた去定は、登を伴れて伝通院の前まで歩き、そこで辻駕籠つじかごをひろって、小伝馬町こでんまちょうへゆけと命じた。
徳次郎は一石橋まで歩いて辻駕籠つじかごをひろい、柳橋へゆくようにと云った。柳橋でおりた彼は、そこでべつの駕籠をみつけ、こんどは神田明神下まで乗った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
六郎兵衛は目礼もしなかった、彼は野中には眼もくれずに歩いてゆき、片町の角のところで辻駕籠つじかごに乗った。
二人の女中、特にお孝と、手代の徳次郎によく頼んでおいておしのはざっと身支度を済ませ、家を出てから辻駕籠つじかごをひろった。むろん稽古納めにゆくのではない、まっすぐに亀戸の寮へ走らせた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)