身体しんたい)” の例文
旧字:身體
其結果から論じたら、わたくしは処世の経験に乏しい彼のおんなを欺き、其身体しんたいのみならず其の真情をももてあそんだ事になるであろう。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし五百は独り脩の身体しんたいのためにのみ憂えたのではない。その新聞記者の悪徳に化せられんことをもおもんぱかったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
野岳がこの登山道路の東をふさいでいるので、朝日を遮ってくれるから、私達は蔭の道を進むことが出来る。朝の谷間たにあいを登る爽快さには身体しんたいもひきしまる。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
かくして、身体しんたいを七十日間曹達水そうだすいひたしたる後、之を取出し、護謨ごむにて接合せる麻布をもって綿密に包巻ほうかんするなり
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
例之たとへばセルギウスには最早一切身体しんたいの労働をさせない。日常の暮しにいるだけの物はこと/″\く給与してくれる。セルギウスは只客を祝福して遣るだけで好い事になつてゐる。
突然だしぬけの侍のうしろから組附いた時には、身体しんたいしびれ息もとまるようですから、侍は驚きまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自分の事と、自分の今日の、只今の事より外に、何も考えてやしない。考えられない程疲労しているんだから仕方がない。精神の困憊こんぱいと、身体しんたいの衰弱とは不幸にして伴なっている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ころしも霜月しもつき下旬の事なれば、(中略)四方よもは白たへの雪にうづみ、川風はげしくして、身体しんたい氷にとぢければ、手足もこごへ、すでにいきへんとせし時、」いつしか妬心としんを忘れしと云ふ
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
往々身体しんたいの健康をそこないて失敗するものあり、いわんや海の内外土地のかい未開みかいを問わず、その故郷を離れて遠く移住せんと欲するもの、もしくは大に業を海外に営まんと欲するものの如きは
主人はおかしさよりも気支きづかわしく「それでは腹部ばかり膨満ぼうまんして身体しんたいが発達しまい」大原「勿論もちろんさ、大抵な小児こども脾疳ひかんという病気のように手も足も細くせて腹ばかり垂れそうになっている。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
余は本篇の初めに於て身体しんたい裝飾の事を云ひ、次で衣服、かむり物覆面ふくめん、遮光器、の事を述べ、飮食、より住居、器具きぐに移り、夫より日常生活せいくわつ、鳥獸魚介の採集、製造、美術、分業、貿易、交通、運搬
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
けれど翁の身体しんたいは、びくとも動かずに跪ずいたまま眤としていた。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
侍「困るな…すると其の女にこう□□められた時には、身体しんたいしびれるような大力だいりきであった」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸戸の想像した通りだとすれば、彼の父の丈五郎は、その身体しんたいの醜さに輪をかけた鬼畜きちくである。世に比類なき極重悪人である。悪業成就じょうじゅの為には恩愛の情なぞを顧るいとまはないであろう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
自分は東京の市内に於ても、隅田川の渡船わたしぶねに乗つてさへ、岸を離れて水上に泛べば身体しんたいの動揺と共に何とも云へぬ快感を覚え、陸地の世界とは全く絶縁してしまつたやうな慰安と寂寞とを感ずる。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
と云いながら死物狂に成ってのぼる処を、水棹で払われ、また続いて斬り掛けました事ゆえ、勇助も年が年なり、数ヶ所すかしょの手傷に身体しんたい自由ならず、其の儘船の中へころがり込み、身を震わし