記号しるし)” の例文
旧字:記號
葛籠に記号しるしもござりませんから、只つまらないのは盲人宗悦で、娘二人はいかにも愁傷致しまして泣いて居る様子が憫然ふびんだと云って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この「磐井」「盛岡」の地図の表は山の記号しるしで埋まっている。この山と山の重なっている中には、どのような寂莫な、神秘がかくされているだろう。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
それをこっそり誰かが盗んで飲まないように自分でちゃんと記号しるしをつけておいたのと、それから鵞ペンや封蝋がどこにあるという位のことである。
私はそこへ行ってもぐ入らずにある一定の場所を見る。その家に異常がないと、その場所に伊藤が「記号しるし」をつけて置くことになっていたからである。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そうして、四隅に不思議な記号しるしをつけ、七と九に関する数字をつけて、その輪のどの部分にも少しの相違もないように、注意ぶかくしらべてからちあがった。
警部の手にした、魚の血によごれた布テープには、そも、いかなる記号しるしがついていたのだろうか。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「うむ、こいつあ甲州の地図だ。……ははあ、こいつが釜無川だな。……おおここに記号しるしがある」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お照は約束たがえず翌日あくるひの晩、表通おもてどおりの酒屋の小僧に四合壜しごうびん銀釜正宗ぎんがままさむねを持たせ、自身は銀座の甘栗あまぐり一包を白木屋しろきや記号しるしのついた風呂敷ふろしきに包んで、再び兼太郎をたずねて来た。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何人なんぴとの会合か隣家となりの戸口へかけて七八輛の黒塗車が居并らび、脊に褐色ちゃや萠黄や好々の記号しるしを縫附けた紺法被こんはっぴが往来し、二階は温雅しっとりした内におのずからさゞめいて居るので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
野々宮さんは目ろく記号しるしけるために、隠袋かくしへ手を入れて鉛筆をさがした。鉛筆がなくつて、一枚の活版ずり端書はがきた。見ると、美禰子の結婚披露の招待状であつた。披露はとうにんだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
組合員の記号しるし
夜明の集会 (新字新仮名) / 波立一(著)
「どこへ運送が来ただ?」と、祖父は、ひよつと若い衆連に取つて食はれるやうなことのないやうにと、大きい甜瓜に記号しるしをしながら、きき咎めた。
表の窓際まどぎわまで立戻って雨戸の一枚を少しばかり引き開けて往来を眺めたけれど、向側むこうがわ軒燈けんとうには酒屋らしい記号しるしのものは一ツも見えず、場末の街は宵ながらにもう大方おおかたは戸を閉めていて
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
というので是から訴えになりましたが、葛籠に記号しるしも無い事でございますからとんと何者の仕業しわざとも知れず、大屋さんが親切に世話を致しまして、谷中やなか日暮里にっぽり青雲寺せいうんじへ野辺送りを致しました。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
野々宮さんは目録へ記号しるしをつけるために、隠袋かくしへ手を入れて鉛筆を捜した。鉛筆がなくって、一枚の活版刷りのはがきが出てきた。見ると、美禰子の結婚披露ひろうの招待状であった。披露はとうに済んだ。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこには、一人の老人がテーブルに向って、何かの書類に記号しるしを入れていた。チチコフとマニーロフとは、テーブルの間を通ってまっすぐにその老人のところへ行った。
おもて窓際まどぎはまで立戻たちもどつて雨戸あまどの一枚をすこしばかり引きけて往来わうらいながめたけれど、向側むかうがは軒燈けんとうには酒屋らしい記号しるしのものは一ツも見えず、場末ばすゑまちよひながらにもう大方おほかたは戸をめてゐて
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
記号しるしはついていないな。」つづいて上着の裏を見ようとする。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)