よぎ)” の例文
遠近おちこちではとりが勇ましく啼いた。市郎はよぎを蹴って跳ね起きた。家内の者共は作夜の激しい疲労に打たれて、一人もまだ起きていない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芭蕉の門に入ったばかりで、貧窮のどん底時代だった、外へ出る着物も夜のよぎもひと組しかなく、それを破笠と共同で遣っている有様だった。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うす暗い奥にはひとりの男がよぎをかぶって転がっていたが、それでも眼を醒ましていたと見えて、直ぐに半身はんみを起こして答えた。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
時どきに苦しそうに胸をかかえながら、彼女は髪を振り乱して、よぎを跳ねのけて、夢中で床の上に起き直ろうとしてまた倒れた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
治六はそっと二階へあがって行くと、もうやがて八つ(午後二時)というのに次郎左衛門はよぎをすっぽりと引っかぶっていた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「まあ、いい。そんなことはあしたの話にして、今夜はお前も寝ろよ。おれももう寝る」と、次郎左衛門は相手にならずによぎをかぶろうとした。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかもこの当時は学堂の制度がはなはだ厳重で、無断外泊などは決して許されないので、かれらは引っ返して酒屋へ行って、単衣ひとえよぎを借りた。
彼女は俯伏したままでまた正体もなく昏睡に陥ったので、お君はそっと寄って上からよぎをきせてやった。縁の下では昼でもこおろぎが鳴いていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おまんはよぎや蒲団を掻きむしって苦しんで、とうとう息が絶えてしまった。医者は何かの中毒であろうと診断した。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それからしずかに起ちあがって、戸棚から蒲団とよぎをひき出した。彼は蒲団の上に坐り直して今夜のことを考えた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
古河君もむろん出発する勇気はないので、遅いあさ飯を食って、風呂にはいって、再びよぎを引っかぶってしまった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは吉五郎の子分の留吉で、彼は寺のひと間によぎをかぶって、そら寝入りをしながら寺内の様子を窺っていた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
障子をあけたのはお冬の枕辺に坐っていた若い男で、お冬は鬢も隠れるほどによぎを深くかぶっていた。男は小作りで色のあさ黒い、額の狭い眉の濃い顔であった。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
奥の寝室はとばりよぎも華麗をきわめたもので、一匹の年ふる大猿が石のとうの上に横たわりながらうなっていると、そのそばには国色こくしょくともいうべき美女三人が控えています。
奥の八畳に寝ていたお此がふと眼をさますと、よぎの襟のあたりに何か歩いているように感じられた。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は頭からよぎを引っかぶってしまったが、自分には大事の役目のあることを承知しているので、今夜は眠らない覚悟をきめて、しずかに夜のけるのを待っていると
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その胴体によぎをきせて置くと、夜あけに首が舞い戻って来ても、衾にささえられて胴に戻ることが出来ないので、首は幾たびか地にちて、その息づかいも苦しくせわしく
それは白い蝶である。蝶ははねをやすめてお勝のよぎの上に止まっている。伝兵衛は床の間の刀を取って引っ返して来て、まずその蝶をおうとしたが、蝶はやはり動かない。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにぶんにも頭が重いので、半七は湯にはいって風邪薬を飲んで、日の暮れないうちからよぎを引っかぶって汗を取っていると、夜の五ツ(午後八時)頃に松吉が帰って来た。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先月の末から十日あまりも吉原の三つ蒲団に睡らない彼は、明けても暮れても宿の二階に閉じ籠って、綿の硬いごつごつしたよぎにくるまって寝るよりほかに仕事はなかった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして、よぎをかぶりながらじっと耳をすましていると、隣りの声はもう聞こえなかった。それでも僕の神経は過度に興奮してしまって、夜のふけるまで到底眠られなかった。
河鹿 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もう勉強する元気もないので、私はすぐに冷たいよぎのなかにもぐり込みましたが、何分にも眼が冴えて眠られませんでした。いや、眠られないのがあたりまえかとも思いました。
白髪鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
外記は天鵝絨びろうどに緋縮緬のふちを付けた三つ蒲団の上に坐っていた。うしろにねのけられた緞子どんすよぎは同じく緋縮緬の裏を見せて、燃えるような真っ紅な口を大きくあいていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あたまからよぎを引っかぶっていて、誰にもみにくい顔をみせまいと泣き狂う富子をすかして、ようように衾を少しばかり引きめくると、男はその顔をじっと見つめてうなずいた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私はよぎを被って蚊帳かやの中に小さくなっていると、しばらくしてパチパチの音もんだ。これは近衛兵の一部が西南役の論功行賞に不平をいだいて、突然暴挙を企てたものとのちに判った。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
主人の前で寝そべっている訳には行かないので、お菊はすぐによぎ跳退はねのけて蒲団の上に跪坐かしこまると、お熊はその蒲団の端へ乗りかかるように両膝を突き寄せて彼女かれの顔を覗き込んだ。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしはよぎをかぶって蚊帳かやの中に小さくなっていると、しばらくくしてパチパチの音もんだ。これは近衛このえ兵の一部が西南えき論功行賞ろんこうこうしょうに不平をいだいて、突然暴挙を企てたものと後に判った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
綾鶴は次の間の夜具棚からよぎや蒲団を重そうに抱え出して来て敷いた。そうして、人形を扱うように綾衣を抱え、蒲団の上にちゃんと坐らせた。綾衣はおとなしくして湯を飲んでいた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たゞ默つておとなしく其處そこにうづくまつてゐるだけのことであつたが、それがたとへやうもないほどに物凄かつた。お道はぞつとして思はずよぎの袖に獅噛しがみ付くと、おそろしい夢は醒めた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
これで思わず手をゆるめる隙を見て、彼は一足踏込ふみこんで当のかたきの市郎に突いてかかると、対手あいては早くもね起きて、有合ありあよぎを投げ掛けたので、小さい重太郎は頭から大きい衾をかぶって倒れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
隣に床を延べているお久はと覗いて見ると平日いつもは寝付が悪いと口癖のように云っている彼女かれが、今夜に限って枕に顔を押付けるかと思うと、何にも云わずによぎをすっぽりと引被ってしまった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お道はぞっとして思わずよぎの袖にしがみ付くと、おそろしい夢はめた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手を取るようにして蚊帳のなかへ押し込まれて、お蝶は雪のように白いよぎにつつまれた。どこかで四ツ(午後十時)の鐘がひびいた。幽霊のような女たちは足音もせずに再びそっと消えてしまった。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しっかり獅噛付しがみついていたよぎの襟は冷い汗にぐっしょりと湿れていた。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがて妻が戻って来ると、夫はよぎのうちに眠っているのであった。
それで済めば無事であったが、外宿した徐四の兄は夜ふけの寒さに堪えかねて、わが家へ毛皮のきものを取りに帰ると、寝床の煖坑の下には男のくつがぬいである。見れば、男と女とが一つよぎに眠っている。