藁苞わらづと)” の例文
普通に行われているのは餅を一種の藁苞わらづとに入れて、屋敷まわりの一定の樹の枝に引掛けて置き、それから大きな声で烏を喚ぶのである。
二人はっと藁苞わらづとの中から脇差を出して腰に差し、ふるえる足元を踏〆ふみしめて此のの表に立ちましたのは、丁度日の暮掛りまする時。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
丑之助は、晴々といって、藁苞わらづとの腹を破った。その中から一羽の鶯がね出した。そして征矢そやみたいに、城の外へ飛んで行った。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藁苞わらづとよりそろ/\と出しこししつかとゆひつけ之までかぜを引たりと僞り一ト夜も湯には入らざるのみか夜もろく/\に目眠まどろまず心を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あるいは藁苞わらづとのような恰好をした白鳥が湿り気のない水に浮んでいたり、睡蓮すいれんの茎ともあろうものがはすのように無遠慮に長く水上にそびえている事もある。
「一銭のだい!」と吉公はしかるように言いました。お婆さんがおずおずと一銭の藁苞わらづとを出しかけると、吉公は
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今でも芝居なぞで玉子の藁苞わらづとを見ると、それをげて田圃道たんぼみちを○○町へ辿る小学生を思い浮べる。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
足がかさなるまでも一所に踏掛けて、人形の首を、藁苞わらづとにさして、打交ぶっちがえた形に、両方からのぞいて、咽喉のどめて、同時に踏はずして、ぶらんこに釣下ろうという謀反むほんでしてなあ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生れつき頭の悪い記者は、念のため今一度買った八百屋に行ってきいて見たら、「今までの藁苞わらづとに這入っているのでは、そのままお膳に乗っけられませぬ。つまり文化的でないというので」
信州では辻の道祖神どうそじんの祭をこの日行う例も多い。藁苞わらづとの馬に藁苞の餅を背負わせて、道祖神の前までいて行って置いて来る。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こんがらもこの有様を見ると、馬の背につけておいた藁苞わらづとの道中差を押ッ取り、いきなり駈け寄って鐘巻自斎の横合から
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩手県では一般にこれをシットギと謂い、風の神送りの日に作って藁苞わらづとに入れてそなえ、または山の神祭の際に、田のくろに立てる駒形こまがたの札に塗りつけた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
取りだしたのは藁苞わらづとである、グイとしごいて、苞からむきだされたのは、蝋色鞘ろいろざやなめらかな大小。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわちしとぎ藁苞わらづとに包んで、高い木のこずえに引掛けておき、烏が来て持って行くことを念ずるのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
青貝柄あおがいえだの、かしだの、朱柄あかえだのの槍が十本程、一束にして藁苞わらづとに巻いて荷の中に立てかけてあった。八十右衛門は酔い頃に染まった顔を撫でながら、側へ行って、縄の束ねを切りほどいた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
両手を泥田へ入れたらしく、真っ黒にして何か藁苞わらづとれて持っている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、丑之助は、手に提げていた藁苞わらづとを上げて見せた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泥の藁苞わらづとを下げて、御膳所ごぜんしょの口をのぞいた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)