菱餅ひしもち)” の例文
三月の節供の白酒、菱餅ひしもち、あられ、米いりに至るまで、やや古い時代にあつては、それぞれ由緒のある、最貴の品だつたのである。
冬至の南瓜 (新字旧仮名) / 窪田空穂(著)
大抵たいていうちではこめ菱餅ひしもちすのが常例じやうれいであるが勘次かんじにはさういふひまがないのでおつぎはわづか小豆飯あづきめしたい重箱ぢゆうばこもつつたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あられがなきや菱餅ひしもちで間に合はせろ、——ところで、これから横川町の伊豆屋と、本郷丸山の本田樣のところへ行くが、付き合つて見るか」
いよいよ春だ。村の三月、三日にはひなを飾る家もある。菱餅ひしもち草餅くさもちは、何家でも出来る。小学校の新学年。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日本一のお嬢さんを妾なんぞにしやあがって、冥利みょうりを知れやい。べらぼうめ、菱餅ひしもち豆煎まめいりにゃかかっても、上段のお雛様は、気の利いた鼠なら遠慮をしてめねえぜ、盗賊ぬすっとア、盗賊ア、盗賊ア
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菱餅ひしもちの底を渡る気で真直まっすぐな向う角を見ると藤尾が立っている。濡色ぬれいろさばいた濃きびんのあたりを、つがの柱にしつけて、斜めに持たしたえんな姿の中ほどに、帯深く差し込んだ手頸てくびだけが白く見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは空虚からになつためしつぎをかへときなかれてやるためであつた。めしつぎには大抵たいてい菱餅ひしもち小豆飯あづきめしとがれられてあつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「これですよ、菱餅ひしもちが三つ」
子供等こどもら大小だいせうことなつたあは菱餅ひしもちが一つは一つとかみうへ分量ぶんりやうしてまれるのをたのしげにして、自分じぶんかみから兩方りやうはうとなりかみからとほくのはうから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「これですよ、菱餅ひしもちが三つ」