荒縄あらなわ)” の例文
旧字:荒繩
荒縄あらなわで両手をしばりあげたまま、松明をぬすみだした物置小屋のなかへ三日間の監禁かんきんをいいわたされてほうりこまれてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
博士は荒縄あらなわで椅子に厳重にしばりつけられていると思いのほか、博士をしばっているものは見えなかった。博士はしずかに椅子から立ちあがった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こと気味きみわるかったのはわたくしのすぐそばる、一人ひとりわかおとこで、ふと荒縄あらなわで、裸身はだかみをグルグルとかれ、ちっとも身動みうごきができなくされてります。
テントのすぐ下には、荒縄あらなわでくくった丸太棒まるたんぼうが縦横無尽に交錯こうさくしていた。その丸太棒の一本に、ポッツリとすずめのようにとまっている人の姿があった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
(いんえごねんごろには及びましねえ。しっ!)と荒縄あらなわつなを引く。青で蘆毛あしげ裸馬はだかうまたくましいが、たてがみの薄いおすじゃわい。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その川添いの庭に、百観音のお姿は、炭俵や米俵の中に、三、四体ずつ、犇々ひしひしと詰め込まれ、手も足も折れたりはずれたり荒縄あらなわでくくってほうり出されてある。
燃えうつった火に肉にくい込むほどくくりつけてある荒縄あらなわがぷつりぷつりと切れて、自分と同じくらいの小さい子がその十字架から落ちて倒れ、煙の中を小走りに走って
匪賊の首領かしらは数人の手下をつれて、見物に出てきました。向こうには五十人ばかりの捕虜ほりょが、荒縄あらなわで縛られ、棒杭ぼうくいに結びつけられて、もう覚悟を決めたらしく、うなだれていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
輿を解くのが一仕事、東京から来た葬儀社の十七八の若者は、真赤になってやっと輿をはずした。白木綿しろもめんで巻かれたひつぎは、荒縄あらなわしばられて、多少の騒ぎと共に穴の中におろされた。野良番はくわをとった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
フトむなぐるしい重みを感じて目をさました時には、すでに四、五人のあらくれ男がよりたかって、おのれの体に、荒縄あらなわをまきしめていたのだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろんその両腕はすでに荒縄あらなわで後ろ手にしばられている。畳でった頬骨の擦り傷から血がふいていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
注連しめのついた荒縄あらなわがギリギリとかれのうでへまわされた。民部はこのあいだに、なにか、いってやりたかったけれど、むねがいっぱいで、かれにあたえることばを知らなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)