かん)” の例文
ことに女にうつつを抜かしている間に、肝腎かんじんのものをしてやられたのでは、あまりかんばしい土産話にはならないのです。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここにさんとして輝くのは、旭日あさひに映る白菊の、清香かんばしき明治大帝の皇后宮、美子はるこ陛下のあれせられたことである。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「どんな話をです?」と、氏のとい呑込のみこめないので訊き返したが、その時っと胸に浮んだのは沼南外遊中からの夫人のかんばしからぬ噂であった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その又お茶の美味おいしかった事……舌から食道へと煮え伝わって行くかんばしいかおりを、クリ返しクリ返し味わって行くうちに、全身の関節がフンワリとゆるんで
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼はしばしば私に告げて、死を想像することはむしろ愉快なことだ、もっとも、これは若い者たちに語るのはあまりかんばしくないことではあるが——と言っている。
水を渡る微風が、舳に立つ少女のかんばしき体臭を、彼女の高い歌声と共に、ソヨソヨと吹き送った。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
育ててゆくのは、このベアトリーチェの役目なのです。それですから、あなたの接吻キッスと……それから私の命のそのかんばしい呼吸いきとを、わたしに下さらなければならないのですよ
筒井家は順慶流だのほらとうげだのという言葉を今に遺している位で、余り武辺のかんばしい家ではない。其家で臆病者と云われたのは虚実は兎に角に、是も芳ばしいことでは無い。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ついでにお茶請の御註文が、——栄太楼の金鍔きんつばか、羊羹ようかん真平まっぴらだ。芝の太々餅だいだいもちかんばしくって歯につかず、ちょいといいけれど、みちが遠いから気の毒だ。岡野のもなかにて御不承なさるか。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
勝つ者は青史の天に星と化して、かんばしき天才の輝きが万世に光被こうひする。敗れて地にまみれた者は、尽きざる恨みを残して、長しなえに有情の人を泣かしめる。勝つ者はすくなく、敗るる者は多い。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
誰の上を聞いて見てもかんばしい話はないやうだった。
(新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
かんばしき若葉の風が洗ひたる石の道をば夕ぐれに行く
真に文字通りかんばしい最期を遂げたのであろう。
さてかんばしく鳴り響く、子供ごころに。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白梅や墨かんばしき鴻臚館こうろかん
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
……ところでそのついでに、何か一つ諸君をアッといわせるような手土産をと思ったが、格別かんばしいものも思い当らないので、そのまま門司の伊勢源いせげん旅館の二階に滞在して
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白梅や墨かんばしき鴻臚館こうろくゎん
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)