船場せんば)” の例文
次いで旧幕時代からの由緒を誇る船場せんばの店舗が他人の手に渡るようになったが、幸子や雪子はその後も長く父の存生中のことを忘れかねて
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
北組、南組とは大手前おほてまへ本町通ほんまちどほり北側、船場せんば安土町通あづちまちどほり西横堀にしよこぼり以西は神田町通かんだまちどほりさかひにして、市中を二分してあるのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
横堀筋違すじかい橋ほとりの餅屋の二階を月三円で借り、そこを発行所として船場せんば新聞というあやしい新聞をだしたのは、それから一年後のことであった。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
鼈四郎は母親の素性をわずかに他人から聞き貯めることが出来た。大阪船場せんば目ぬきの場所にある旧舗しにせの主人で鼈四郎の父へ深く帰依きえしていた信徒があった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかしまだ、高津の黒焼屋の前を通ると、私は私自身の生れた家を思い出す。それから船場せんば方面やうつぼあたりには、私の幼少をしのばしめる家々がまだ相当にのこっている。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
高坂こうさか三伝さんでんというのが、マア首領株で、他にはたしか——それが、三、四、五と順になるような名前じゃったと思うたが——それぞれ船場せんば四郎太、それから矢伏やぶせ五太夫、もう一人は
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
じゅくは「適塾てきじゅく」といい、船場せんば過書町かいしょまち(いまの東区ひがしく北浜きたはま丁目ちょうめ)にありました。緒方先生おがたせんせいはすぐれた町医者まちいしゃで、オランダとオランダ医学いがくをおしえていて、おおぜいの書生しょせいがいました。
高浜虚子氏が以前なんかの用事で大阪に遊びに来た事があつた。その頃船場せんば辺の商人あきうど坊子連ぼんちれんで、新しい俳句に夢中になつてる連中は、ぞろぞろ一かたまりになつて高浜氏をその旅宿やどやに訪問した。
「美人は宗右衛門町そうえもんちょう、金持は船場せんばと島の内かい?」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
船場せんばの方にお店のある羅紗ラシャ問屋のお嬢様で、住まいは阪急の蘆屋川あしやがわにあるのやいうようなことまでちゃんと知ってましてん。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これは城と東町奉行所とに接してゐる天満橋を避けて、迂回うくわいして船場せんばに向はうとするのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私の生れた船場せんばや島之内あたりの、最も古風が今に残されているところでは、この夏祭や正月において、私と同じ運命に出会っている子供を時々発見することがある、私はあわれに思う。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その前日大阪に来てその頃南本町みなみほんまちにあつた船場せんば館といふ旅屋やどやに泊つた。
船場せんばの旧家の生れであり、同じ人種のようなものであって見れば、好きも嫌いもその範囲内でのことである。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
西が知源寺ちげんじ摂津国町つのくにまち又二郎町またじらうまち、越後町、旅籠町はたごまち、南が大川、北が与力町をさかひとし、大手前から船場せんばへ掛けての市街は、谷町たにまち一丁目から三丁目までを東界ひがしさかひ上大かみおほみそ筋から下難波橋しもなんばばし筋までを西界にしさかひ
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
でも、あいそ笑いをして此方こちらの顔色をうかがい窺い、心持ちあごを突き出して訴えるような鼻声で話しかける様子に、矢張「船場せんばぼんち」らしい甘ったるさが残ってはいた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二十年前の船場せんばの家の記憶があざやかによみがえって来、なつかしい父母の面影が髣髴ほうふつとして来るのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大阪も船場せんばあたりの家になりますと奉公人の礼儀作法がめんどうでござりましていろいろ格式を
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんでその男、——ああ、そうそう、男はその時「財布を取られてしもたのんで名刺ありませんけれど、僕は船場せんばの徳光さんの店の近所におります綿貫栄次郎わたぬきえいじろういうもんです」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大阪も近頃は御堂筋みどうすじなどが拡張されて、中之嶋から船場せんば方面に近代的建築が続々そそり立つようになり、朝日ビルの十階、アラスカの食堂あたりから俯瞰ふかんすると、流石に壮観であるけれども
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
船場せんばや島の内あたりに店を持つ町家まちやにしばしば見受けられる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「姉ちゃんとこの事務所、今橋と南と二つあるいうて、此処の番号せたあるねん。姉ちゃんかって何ぞ家の方いそないいうといたらどやのん? 船場せんばの店の出店やいうてもええし、あての家でいかなんだら、ええ加減な名アいうといたらえやないかいな」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)