膳立ぜんだ)” の例文
……とはいえ、わたしがしきりに気をもんで、いろんな計画を立てているうちに、運命はちゃんとお膳立ぜんだてをしてくれたのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
喜久井町きくいちょうにかえると、老母ばあさんは、膳立ぜんだてをして六畳の机の前に運んで来た。私はそれを食べながら、かねの工面をして、出かけようとすると
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しかも機会が、まるでわざと膳立ぜんだてしたように、初めて彼にドゥーニャを見せるために、兄に会った愛と喜びの美しい瞬間を与えたのである。
良太郎も子供たちも慣れているため、彼女が帰らなくともべつにふしぎはないようすで、父親が膳立ぜんだてをすると、みんな温和しくめしを喰べる。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
飯はどうなる事かと、またのそのそ台所へあがった。ところへさいわい婆さんが表から帰って来て膳立ぜんだてをしてくれた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
返って来ればチャンと膳立ぜんだてが出来ているというのが、毎日毎日版にったようにまっている寸法と見える。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
次手ついでだから、つぎとまり休屋やすみや膳立ぜんだてを紹介せうかいした。ますしほやき、小蝦こゑびのフライ、玉子焼たまごやきます芙萸ずいきくづかけのわん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
慰労にも前祝まえいわいにも、常の通りの膳立ぜんだてでは、とても引きしまった晴れの感じにはなり切れなかったのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その膳立ぜんだてが立派であると同時に料理の種がすっかり限定されてしまって、生徒はそれだけを食って満足するが、他に食物のあることをいっさい忘却してしまう。
さるかに合戦と桃太郎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
やがて、さけの焼いたので貧しい膳立ぜんだてをした父親が、それ丈けが楽しみの晩酌ばんしゃくにと取りかかるのである。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
福子の親父おやじだのと云うものがお膳立ぜんだてをしたからなのだと、そう思われて、少し誇張した云い方をすれば、生木なまきを割かれたような感じが胸の奥の方にくすぶっているので
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二十はたちにもなれば、彼女はある日ハハキトクの偽電報にせでんぽう一本で奉公先から呼びかえされ、危篤きとくのはずの母たちの膳立ぜんだてのまま、よくはたらく百姓ひゃくしょうか漁師の妻になるかもしれぬ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
お政は泣く子をかげでしかりつけ、におうて膳立ぜんだてをするのである。おちついてやるならばなんでもないことながら、心中惑乱わくらんしているお政の手には、ことがすこしも運ばない。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
すっかりお膳立ぜんだてが出来たところで、政府筋と支那との直接契約が成立してしまった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつも階下したにおりて食べる御飯を、今日は主婦さんがさい餉台をもって上って、それに二人の膳立ぜんだてをしてくれた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ちょうど妹が食事の膳立ぜんだてをしているところでしたが、私は妹を去らせ、食膳を押しやって筆談の用意をすると、梓は「まず食事を済ませて下さい」と書いてみせました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あなたは小山田さんの留守中、毎日午後からるまで、茶の湯と音楽の稽古に通ったのです。……ちゃんとお膳立ぜんだてをして置いて、僕にあんな推理を立てさせたのは誰だった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
兄哥あにやのために姉さんが、お膳立ぜんだてしたり、お酒買ったりよ。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小倉に一と車積み出さしておいて、私は散らかった机の前で老母ばあさん膳立ぜんだてしてくれた朝飯のはしを取り上げながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「それに、おまえさんがそこまでお膳立ぜんだてをしてくれるつうなら、ためしにやってみてもいいと思うだ、そう思うだが、間違っても災難ごとなんぞ起こりやしねえだべえな」
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
酒が来、肴が届いて、膳立ぜんだてをしていると、またおしのが来て云った。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)