胸元むなもと)” の例文
乳母 そのきずましたが、此眼このめましたが……南無なむさんぼう!……ちょうどこの立派りっぱ胸元むなもとに。いた/\しい、無慚むざんな、いた/\しい死顏しにがほ
代りて酌する彼の想は、吾手わがて男の胸元むなもと刺違さしちがふるきつさきを押当つるにも似たる苦しさに、おのづから洩出もれいづる声も打震ひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
頭を足蹴あしげにされた。腹にもった。胸元むなもとを踏みつけては、駆けだしてゆく。あッ、口中こうちゅうへ泥靴を……。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その軸物におりおり眼をやって、さかずきをふくむ。酒を飲んでくつろげばくつろぐほど胸元むなもとがはだけて、そこから胸毛をのぞかせる。それぐらい花袋かたいふとっているのである。
江漢の手は、もう、耀蔵の胸元むなもとをつかんで、右手のやいばを、向けていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
理不盡りふじんなるいかり切先きっさきたゞ一突ひとつきにとマーキューシオー殿どの胸元むなもとをめがけていてかゝりまする、此方こなたおなじく血氣けっき勇士ゆうし、なにを小才覺ちょこざいなと立向たちむか
実は急に胸元むなもとが悪くなって、嘔吐おうともよおしたのだ。そして軽い脳貧血にさえ襲われた。私は皆のすすめで室を後にし、別室のベッドに寝ていたのだ。それからかれこれ三時間は経った。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
譜本ふほんうたうたふやうに、距離きょり釣合つりあひちがへず、ひいふういて、みッつと途端とたん敵手あひて胸元むなもと貫通ずぶり絹鈕きぬぼたんをも芋刺いもざしにしようといふ決鬪師けっとうしぢゃ。
ルパシカ男は、頑強に反対する一局員の胸元むなもとに、短銃の口を、圧しつけた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)