肥立ひだち)” の例文
こずえは女のくせに大きな児で、お産はちょっと重かったが、あとの肥立ひだちは順調だったし、子供は申し分なく健康であった。
やぶからし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのうちにお若は安産いたし、母子おやことも肥立ひだちよく、甚兵衞夫婦は相変らず親切に世話してくれます。お若伊之助は夫婦になって田舎で安楽に暮して居ります。
夫は、三月の半ば頃で、譲吉の妻が、肥立ひだちしてから、まだ間もない日曜の事であった。その日は、全く冬が去り切ってしまったように、朝から朗かな日が照って居た。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
飽いたと云うよりもむしろ恐れたのであった。そんな状態ありさまで幾年かを無意味に送るあいだに、お杉は懐胎して重太郎を生んだが、産後の肥立ひだち不良よくないので久しく床に就いた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
玉之助たまのすけなづ掌中たなそこの玉といつくしみそだてけるしかるに妻は産後の肥立ひだちあし荏苒ぶら/\わづらひしが秋の末に至りては追々疲勞ひらうつひ泉下せんかの客とはなりけり嘉傳次の悲歎ひたんは更なりをさなきものを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
めい、女房は産後の肥立ひだちが良くねえので床に就いたきり、野郎は車でもかうツて見た所で、電車が通じたので其れも駄目よ、彼此かれこれする中に工場できざした肺病が悪くなつて血を吐く
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お産をした後は産後の食物が一番大切で肥立ひだちの良いのも悪いのも乳の出るのも出ないのも食物次第で大層違う。だから誰でも女と生れたらお料理の事を覚えておかなければなりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
其年九月のはじめ安産あんざんしてしかも男子なりければ、掌中てのうちたまたる心地こゝちにて家内かないよろこびいさみ、産婦さんふすこやか肥立ひだち乳汁ちゝも一子にあまるほどなれば小児せうに肥太こえふと可賀名めでたきなをつけて千歳ちとせ寿ことぶきけり。
それは産後の肥立ひだちが悪かったせいだとも云い、または別のやまいだとも聞いているが、これも詳しい話をしてやるほどの材料に欠乏した僕の記憶では、とうていえた彼の眼を静めるに足りなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
名を四萬太郎しまたろうと附けましたが、おかめは産後の肥立ひだちが悪く、漸々よう/\のことで十一月になりますると、先ず体も治りましたから、斯んな山の中に何時までも居られる訳のものではない
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
後の證據しようことして下し置れしが澤の井儀はもと佐渡さど出生しゆつしやうの者故老母諸共生國佐州へかへり間もなく御安産なりしが産後さんご血暈ちのみちにて肥立ひだちかね澤の井樣には相果られ其後は老母らうぼの手にて養育やういく申上しが又候老母も病氣にて若君の御養育やういく相屆あひとゞかず即は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)