線香せんこう)” の例文
鐘供養かねくようというのは、どんなことをするのかとおもっていたら、ごんごろがねまえ線香せんこうてて庵主あんじゅさんがおきょうをあげることであった。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
多くの若い者を使っていた農家では、線香せんこう一本のたつあいだなどという、おかしいほどみじかい時間の昼寝ひるねをさえ規則にしていた。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
線香せんこうけむりのような雲が、とおる底の上を静かにして行ったと思ったら、いつしか底のおくに流れ込んで、うすくもやをけたようになった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よせばいいのに、ソロリ、ソロリと四ツンいにはいだして、つぎの部屋へやの向こうがわの、線香せんこうのようにスーと明かりの立っているところを目あてに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おとうさんは、このさかずきがおきで、毎晩まいばんこのさかずきでおさけをめしあがられたのだ。」と、彼女かのじょは、いいながら、線香せんこうてて、かねをたたきました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたしは——まだ子供だったわたしはやはりこう云う日の暮に線香せんこう花火に火をつけていた。それは勿論東京ではない。わたしの父母の住んでいた田舎いなかの家の縁先えんさきだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夕方、しずかになった墓地に往って見る。沈丁花ちんちょうげ赤椿あかつばきの枝が墓前ぼぜん竹筒たけつつや土にしてある。線香せんこうけむりしずかにあがって居る。不図見ると、地蔵様の一人ひとり紅木綿べにもめんの着物をて居られる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
れば池のふちなるれ土を、五六寸離れて立つ霧の中に、唱名しょうみょうの声、りんの音、深川木場のお柳が姉のかどまぎれはない。しかおもてを打つ一脈いちみゃく線香せんこうにおいに、学士はハッと我に返った。
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忠義ちゅうぎいぬのおはかだといって、みんながおまいりをして、はなやお線香せんこうげました。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)