しょう)” の例文
軟らかな風がどこからともなしに吹いてきて、笑声が聞え、その笑声に交って笛やしょうが聞えてきた。毅は不審に思って外の方を見た。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
蔀を上げると、格子戸を上へ切った……それも鳴るか、しょうの笛の如き形した窓のような隙間があって、と電光に照される。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どこか高い所でするしょうげん鉄笛てってきはん(一種のカスタネット)などの奇妙な楽奏がくそうの音に、はっと耳をまされていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城松という盲人は、鳴滝なるたきの下でしょうを吹くと、人ただ簫声あるを聞いて、瀑声あるを聞かなかったそうであります。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分の隣に坐っていたお重が「大兄さんの時より淋しいのね」と私語ささやいた。その時はしょうや太鼓を入れて、巫女の左右に入れう姿もちょうのように翩々ひらひら華麗はなやかに見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
烈風は櫓楼をしょうのようにうならせ、それが旋風つむじと巻いて吹き下してくると、いったん地面に叩き付けられた雪片が再び舞い上ってきて、たださえほの暗い灯の行手を遮るのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
で始めにはチベット流の音楽、ちょうど日本のしょう篳篥ひちりき及び太鼓たいこようなもの音調そのままで行列を整えて参ります。もちろんこの行列には鉄砲、槍、刀の類を持って来るような者は少しもない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
物に滲み入るようなしょうの音、空へ舞い上がるような篳篥ひちりきの音、訴えるような横笛の音が、互いに入り乱れ追い駆け合いながら、ゆるやかな水の流れ、静かな雲の歩みのようにつづいて行く。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
窓の中を覗いて見ると、つくえの上の古銅瓶こどうへいに、孔雀くじゃくの尾が何本もしてある。その側にある筆硯類ひっけんるいは、いずれも清楚せいそと云うほかはない。と思うとまた人を待つように、碧玉のしょうなどもかかっている。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
林のしょうをきけば
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しょうの音が起って騒がしかった堂の中が静かになってきた。ぬいとりのある衣服を着てかつぎをした女が侍女に取り巻かれて出てきた。
陳宝祠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
楽園がくえんと云うのだそうである。諸侯だいみょう別業しもやしきで、一器ひとつ、六方石の、その光沢ひかり水晶にして、天然にしょうの形をしたのがある。石燈籠ほどの台に据えて見事である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九月九日は重陽ちょうよう節句せっくである。この誓いの式は「菊花の会」につづき、山も風流な宴にいろどられた。月明の下、馬麟ばりんしょうを吹き、楽和がくわはうたい、また燕青えんせいことを奏でた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しょうの笛をピイと遣れ、上手下手は誰にも分らぬ。それなら芸なしとは言われまい。踊が出来ずば体操だ。一
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれのところしょうを吹いて鳳凰ほうおうを引く
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
時に——目の下の森につつまれた谷の中から、いっセイして、高らかにしょうの笛が雲の峯に響いた。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伶人れいじんの奏楽一順して、ヒュウとしょうの虚空に響く時、柳の葉にちらちらとはかまがかかった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伶人れいじんの奏楽一順して、ヒユウとしょう虚空こくうに響く時、柳の葉にちら/\と緋のはかまがかゝつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しょうの窓から覗いた客は、何も見えなかった、と云いながら、真蒼まっさおになっていた。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)