はした)” の例文
優雅、温柔おんじゅうでおいでなさる、心弱い女性にょしょうは、さような狼藉にも、人中の身を恥じて、はしたなく声をお立てにならないのだと存じました。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いろいろさまざまのお金の山の中へ身を置かれて、お金の誘惑はプツリともなかったが、はしたなお鳥目の誘惑の方はしきりだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
又女房を金の抵当かたに取るなどとはしたないことはなさる筈がない、そんなことは下々しも/″\ですること、先生はよもや御得心のことではあるまい、何か頓と分りませんから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いわば世界中の海をまたにかけた男らしい為事しごとで、はした月給を取って上役にピョコピョコ頭を下げてるような勤人よりか、どのくらい亭主に持って肩身が広いか知れやしねえ
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
明けても暮れても八百八町を足に任せてうろつくところから自然と彦兵衛がっている東西南北町名いき番付といったような知識と、屑と一緒に挾んでくるはしたの聞込みとが
どう間違ったッて、こんな輩の前ではしたない振舞いをするはずはないのだが、先刻からたまっていた鬱屈と憤懣が、未熟な酒の酔といっしょに一時に発し、どうしても感情を制止することが出来ない。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
時計だの、金だの、お前さんが嬉しがって手柄そうにここに並べて置くものは、こりゃ何だい! 私に言わせるとけちさ、はしたのお鳥目でざら幾干いくらでもあるもんだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうをゆら/\と身動みうごきしたが、はしたなき風情ふぜいえず、ひとなさけ汲入くみいれた、やさしい風采とりなり
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「よう、おしまいなさいよ。」といったが、はしたなくも見えて、き込む調子。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
てめえのためならばな、かぶとしころなッちもらない、そらよ持って行きねえで、ぽんと身体からだを投出してくれてやる場合もあります代りにゃ、あま達引たてひく時なんざ、べらんめえ、これんばかしのはしたをどうする
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、三両二分か、何でも二分というはしただけは付いてると聞いたよ。そうか、三両二分か。ふ、豪儀なもんだ、ちょっとした碁盤よりが張ってら。格子戸で、二間なら一月分の店賃たなちんだ、可恐おそろしい、豪傑な。」と熟々つくづく見ながら
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)