端緒たんちょ)” の例文
それで今、すこしく端緒たんちょをここに開いて、秋から冬へかけての自分の見て感じたところを書いて自分の望みの一少部分を果したい。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かれは血に飢えている犬をけしかけて、お作を咬ませたのであった。そうして、自分の運命をも縮める端緒たんちょを作り出したのであった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丁度ちょうど自分の学校から出た生徒が実業について自分と同じ事をすると同様、乃公おれがその端緒たんちょを開いたと云わぬばかり心持こころもちであったに違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
一月八日に保は東京博文館のもとめに応じて履歴書、写真並に文稿を寄示した。これが保のこの書肆しょしのために書をあらわすに至った端緒たんちょである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あのような恐ろしい事件の端緒たんちょとなったこの宿命的な帰郷は、自分にとって、その後長いあいだ、ほとんど常に不可解ななぞとして残っていた。
山に走り込んだという里の女が、しばしば産後の発狂であったことは、事によると非常に大切な問題の端緒たんちょかも知れぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
然し主任がその位の説明で満足する筈はなく、当分夜の間刑事を吉蔵の店の床下に張り込ませて、何処までも事件の端緒たんちょつかむようにと手配した。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
当時、朝廷と院政との、二元政治の変則を見たほど、世はすでに、みだれの端緒たんちょをみせていたが、まだちまたには、こんなある日の春風も流れてはいたのである。
こうなると、一面解決の端緒たんちょが見えそうになると共に、一面問題はいよいよ大きくなるでしょう。
これに端緒たんちょを得た忠相は、用人に命じ、みずからも手をくだして乾坤二刀争奪のいきさつから、それに縦横にまつわる恋のたてひきまで今はすっかりしらべあがっているのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今から思えば用意の足りない計画であったともいえるが、同時にその純な若々しい気持が燃えていなくば、この仕事は端緒たんちょを得なかったであろう。私たちは幸にも信念で事を始めた。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかれども答えず。因って儂は、あるいは書にし、あるいは百方げんを尽して、数〻しばしばその心事を陳述せしゆえ、やや感ずる所ありけん、ようやく、今回事件の計画中、その端緒たんちょを聞くを得たり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
次の事件の端緒たんちょをつかみ得るだろうと狙いをつけて、幸い神山さんと土居画伯が毎日タマツキの賭けに熱中しておられるところから、私も賭けのタマツキに一枚加わることに致したのです。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
みだりに事を荒立てて、正面切って押し入ったのでは、事件を隠蔽される懸念がありましたので、先ず事実の端緒たんちょをつかむ迄はと、退屈男は影のように近よりながら、邸内の様子を窺いました。
知るに至った端緒たんちょであるがこの書は生漉きずきの和紙へ四号活字で印刷した三十枚ほどのもので察するところ春琴女の三回に弟子の検校がだれかに頼んで師の伝記を編ませ配り物にでもしたのであろう。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それがなんと僥倖ぎょうこうにも、犯人逮捕の端緒たんちょとなったのである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まず長官に心事を語る そこで私は話の端緒たんちょを改め
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何分にも世故せこの経験に乏しい長三郎の頭脳あたまでは、その謎を解くべき端緒たんちょを見いだし得なかった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すでにある秘密の端緒たんちょをつかみかけた事もあったが、その折、光厳が次の夜ここでもう一度落会った上、一切を打明けるとの事に、うっかり信じて翌晩を待っていると、光厳は次の日
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この一羽の窮鳥が、越後へ入国したのが抑〻そもそも端緒たんちょである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)