立錐りっすい)” の例文
壮大なる宮の建築、立錐りっすいの余地なき祭りの群衆、しかつめらしき祭司、学者、長老の一団! しかしどこに神殿のたましいがあるか。
しかしながら、桝に盛られたこの立錐りっすいの余地なき人間の一山は、それを苦にもしないで、盛られたままに歌うもあれば騒ぐもある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
満堂立錐りっすいの地なく、崇仰の感に打たれたる学生は、滔々として説き来り説き去る師の講演を、片言隻語も漏らさじと、筆を飛ばしておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
満場立錐りっすいの余地もない大入りで、色々な帽子やハンカチが場内一面にうごめいている有様は宛然さながらあぶらむしの大群のように見える。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と帆村は、麻雀倶楽部クラブの競技室のカーテンを開くと、同時に叫んだ。この暑いのに、文字通り立錐りっすいの余地のない満員だった。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
浅草橋からおくらまえ、駒形並木こまがたなみき、かみなり門の往来東西に五丁ほどのあいだ、三側四側につらなって境内はもとより立錐りっすいの余地もない盛りよう。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そのとし有名なる岸田俊子きしだとしこ女史(故中島信行氏夫人)漫遊しきたりて、三日間わがきょうに演説会を開きしに、聴衆雲の如く会場立錐りっすいの地だもあまさざりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
三条、二条の通りを縦に貫く堺町あたりの両側は、公使らの参内を待ち受ける人で、さながら立錐りっすいの地を余さない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
禿谷には、その翌日、一山の人々がきびすをついでぞろぞろとれてきた。講堂は立錐りっすいの余地もなく人でうまった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆえに封建社会においては尺地もその領主の有にあらざるものなく、一夫もその主人の臣たらざるものなく、武備の版図全局に膨脹してまた他に立錐りっすいの余地をあまさず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
利根川を越えて一里ばかり、高取たかとりというところに天満宮があって、三月初旬の大祭には、近在から境内けいだい立錐りっすいの地もないほど人々が参詣した。清三も昔一度行ってみたことがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いわゆる立錐りっすいの余地もない大入おおいりであったので、わたしもそれにびっくりした。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相手は大勢おおぜい、蟠龍軒はすきあらば逃げたいのは山々でござりますが、四辺あたりは一面土手をいたる如く立錐りっすいの余地もなく、石川土佐守殿は忍び姿で御出馬に相成り、与力は其の近辺を警戒して居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
無論立錐りっすいの余地なき満員である。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まもなく、場の内外は立錐りっすいの余地もない景気、やがてカッチカッチと拍子木が鳴る。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも当時大阪事件が如何いかに世の耳目じもくきたりしかは、の子女をしてこの芝居を見ざれば、人にあらずとまでに思わしめ、場内毎日立錐りっすいの余地なき盛況をげんぜしにても知らるべし
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかりといえども欧州諸国は、ゆるめばすなわち両軍相攻め、迫ればすなわち杖戟じょうげき相撞あいつくの勢いにしてほとんど立錐りっすいの閑地さえあらざるをもって、とうてい快活の運動を試みるあたわず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
荒れはてた御堂をとりまいて、立錐りっすいの余地もなく人ごみがゆれ動いている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それが自然、こんど江戸から来たエライ先生、珍しい先生の講演をも聞いて行こうという気になったものですから、さしもに広い講堂は、立錐りっすいの余地もないほどの聴衆で埋まるという盛況です。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それより徒歩して東雲しののめ新聞社に至らんとせるに、数万すまんの見物人および出迎人にて、さしもに広き梅田停車場ステーションもほとんど立錐りっすいの地を余さず、妾らも重井、葉石らと共に一団となりて人々にようせられ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)