こま)” の例文
「そうか。みんな相応に年をとっていたからな。それにあの会社もつぶれてしまったから、こまっているのはおればかりでもないんだろう。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「よくよく達雄さんもこまって——病気にでも成るとかサ——そういう場合は格別ですが、下手へたなことは見合せた方が可いネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
紳士たりといへども金銭かねこまらんと云ふ限は無い、窮つたから借りるのだ。借りて返さんと言ひはまいし、名誉に於てきずつくところは少しも無い
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「私が意久地いくじが無いからなんですよ。阿父が亡くなつたからツて、此様にこまらなくツても可い譯なんですがね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
よく旅でこまつたから給金は幾らでも好いなんてのが泣きついて来ますがな、わつしの家ぢや渡り者は一切使はねえことにしとります。渡り者てえ奴あ始末におへませんでなあ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
「しかしね、ここに一つこまったのは、私が東京へ行ってしまうと、母親がひとりで……」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「奥さんのようなこまった事のない方にゃ、まだその意味が解らないでしょうがね」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といふを冒頭はじめに、年も訊かれた、郷里も訊かれた、兩親のあるか無いかも訊かれた。學校へ上つたかどうかも訊かれた。お定は言葉にこまつて了つて、一言言はれる毎に穴あらば入りたくなる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
飲めばこまるといふことは知りつゝ、どうしても持つた病には勝てないらしい。その為に敷居が高くなつて、今では寺へも来られないやうな仕末。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一寸こまったが、四五年前までしばらく関係のあった女の事を思出して、「三十一。明治三十九年七月十四日生丙午ひのえうま……。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ええ、狼狽うろたへてくだらんことを言ふな。食ふにこまつて身を売らなければならんのぢやなし、何を苦んで嫁にくのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そんなことをあてにしてぐずぐずしているうちには、欣さんが食うにこまってくる。私の仕送りを頼みにしている身の上なのだから、お金がかなかった日には、どんなに窮るだろう。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といふを冒頭はじめに、年齢としも訊かれた、郷里くにも訊かれた、両親のあるか無いかも訊かれた。学校へ上つたか怎かも訊かれた。お定は言葉にこまつて了つて、一言ひとこと言はれる毎に穴あらば入りたくなる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そんなにこまっているのかなあ」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
君江は返事にこまって黙ってしまったが、その時ふと、この老人とは女給にならない以前からの知合しりあいで、身の上の事は何も彼も承知している人だから
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「一向聞きませんな。那奴あいつ男を引掛けなくても金銭かねにはこまらんでせうから、そんな事は無からうと思ひますが……」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
姉さんにそう言ってくれ給え——もし達雄さんがこまって来たら、『窮るなら散々御窮りなさい……よく御考えなさい……是処ここは貴方の家じゃ有りません』
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな風にして、無理に推着おッつけて婿を取らしたが、実は何、路頭に立つなんて、それほどこまりもしなんだのを、慾張よくばりで、お金子かねが欲しさに無理に貰ったが悪いことをしたッて、言うんだ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よく/\言ひ様にこまつたと見えて、斯う答へたが、子供心にも父を憐むといふ情合じやうあひは其顔色に表れるのであつた。見れば省吾は足袋も穿いて居なかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
新太郎は金にこまらない事、働きのある事を、親兄弟や近處のものに見せてやりたいのだ。
羊羹 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
全額みんなもらったらおまえさんがこまるだろう」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお雪は返事にこまった。交際つきあって見た上でなければ、彼女には何とも言ってみようが無かった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新太郎は金にこまらない事、働きのある事を、親兄弟や近処のものに見せてやりたいのだ。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姉は返事にこまって、急に思い付いたように歩き出した。「まあ、病気の話なぞは止そう。それよりか私が丹精した畠でもお前さんに見て貰おう。御蔭で今年は野菜も好く出来ましたよ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の癖として、人が惡い顏をするのを見ては居られません。そこで私は握飯の遣り場にこまつて、玄關の小部屋の縁の下へそツと藏つて置くことにしました。土藏造で床も高く出來て居ましたから。
ごらんなさい——土佐あたりの人はそんな気で、会津戦争に働いていましたよ。そりゃ一方に戦功を立てる藩があれば、とかく一方にはそれをねたんで、こまるように窮るようにと仕向ける藩が出て来る。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三吉は返事にこまった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
岸本は返事にこまって
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)