矢叫やさけび)” の例文
それらの者はこの六月の末という暑気に重い甲冑を着て、矢叫やさけび太刀音たちおと陣鐘じんがね、太鼓の修羅しゅらちまたに汗を流し血を流して、追いつ返しつしているのであった。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
酒半ばにしてどっ矢叫やさけびの声を立てて、突然いきなり梓の黒斜子くろななこに五ツ紋の羽織を奪って、これを蝶吉の肩にせた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ジオンのたたかいたけなわなるに我は用なきつわものなれば独り内に坐して汗馬かんばの東西に走るを見、矢叫やさけびの声、太鼓の音をただ遠方に聞くにすぎず、我は世に立つの望み絶えたり、また未来に持ち行くべき善行なし
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
じつ矢叫やさけびごとながれおとも、春雨はるさめ密語さゝやきぞ、とく、温泉いでゆけむりのあたゝかい、山国やまぐにながらむらさきかすみ立籠たてこもねやを、すみれちたいけと見る、鴛鴦えんわうふすま寝物語ねものがたりに——主従しゆじう三世さんぜ親子おやこ一世いつせ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
の古戦場をよぎつて、矢叫やさけびの音を風に聞き、浅茅あさじはらの月影に、いにしえの都を忍ぶたぐひの、心ある人は、此のおうなが六十年の昔をすいして、世にもまれなる、容色みめよき上﨟じょうろうとしても差支さしつかえはないと思ふ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)