眼脂めやに)” の例文
もっとも下男は給銀を取るが、昌平はときたまのみ眼脂めやにほどの小遣を貰うだけだから、実質的には下男に及ばなかったかもしれない。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
車屋の黒はそのびっこになった。彼の光沢ある毛は漸々だんだん色がめて抜けて来る。吾輩が琥珀こはくよりも美しいと評した彼の眼には眼脂めやにが一杯たまっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ねえ、随分怜悧りこうでしょ。これ唖川小伯爵から頂いたのですよ。ねえねえウーちゃん。アラアラ眼脂めやにが出ているわよ」
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
奴隷は眼脂めやにかたまった逆睫さかまつげをしばたたくと、大きく口を開いて背を延ばした。弓は彼の肩からすべちた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
絆纏はんてんにゲートルを巻いて、何か知らぬが大きな風呂敷包を腰にくくりつけたのや、眼脂めやに眼蓋まぶたのくつつきさうになり、着物の黒襟が汚れてピカピカに光つてゐる女やら
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
もっともそれも、その時分にはなまめかしさの感じの方が強かつたのだが、年を取るに従つて、ぱつちりしてゐた瞳も曇り、眼のふちには眼脂めやにが溜つて、見るもトゲ/\しい
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
間違ひもない相模訛さがみなまり、少し眼脂めやにが溜つて、傍へ寄るとプーンと匂ひさうです。
踊子の赤いエナメルの靴尖くつさきに打ちつづく自己の災難を忘れて、断髪した朝鮮女と、口唇くちびるを馬のように開いて笑う日本女、猫背の支那女、眼脂めやにの出たロシア女、シミーダンスの得意なマレー女
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
眼の悪い方の船頭は、眼脂めやにおびただしく出して、顔を真赤にして居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
男というものは野良姿のらすがたのままで、手足のつめの先にはどろをつめて、眼脂めやにかず肥桶こえおけをかついでお茶屋へ遊びに行くのが自慢だ、それが出来ない男は、みんな茶屋女の男めかけになりたくて行くやつだ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼はなにもはいていないはだしの爪尖つまさきで、道のしめった土をひっきながら、眼脂めやにだらけの眼でじろじろ相手を眺めまわした。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
骨と皮ばかりになっている上に、鼻の頭がカラカラに乾いてしまって、瞳孔の開いた眼脂めやにだらけの眼で悲しそうに吾輩を見上げているが尻尾を振る元気も無いらしい。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっともそれも、その時分にはなまめかしさの感じの方が強かったのだが、年を取るに従って、ぱっちりしていたひとみも曇り、眼のふちには眼脂めやにたまって、見るもトゲトゲしい
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
蕎麦屋そばやの小僧が頭に器物うつわものを載せて彼の方へ来た。彼はその器物を突き落とそうとしてにらみながら小僧の方へ詰め寄っている自分を感じた。小僧は眼脂めやにをつけた眼で笑いながら
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
間違いもない相模訛さがみなまり、少し眼脂めやにが溜って、そばへ寄るとプーンと匂いそうです。
のぼりもくだりも帆を揚げて居る船は一隻もなかつた。一人の船頭の胸からは油汗が流れ、一人の船頭の眼からは眼脂めやにが流れた。人々は岸の人家や土手の樹木の移つて行くことの遅いのに段々んで来た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
すると、ナタリーが眼脂めやにをふいてこたえた。
スポールティフな娼婦 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「お侍さまはお城の方ですか」と老婆が眼脂めやにだらけの眼で光辰を見た、「わたしはかすみ眼でよくお姿が見えないんですが」
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
眼のふちには眼脂めやにが溜つて、見るもトゲ/\しい、あらはな哀傷を示すやうになつたのである。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そう云って、お媼さんは眼脂めやにだらけな、しょぼしょぼとした眼を見張った。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)