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眞向
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まむか
鳴いて
居る……
二時半だ。……やがて、
里見さんの
眞向うの
大銀杏へ
來るだらう。
汲せんとなし其
節に此
眞向ひの
棟割長家建續けたる其中にも一
層汚く
荒果し
最小狹なる家の中に五十四五なる老人
一個障子一枚
押開き
端近ふ出物の本を
繰廣げ見てゐたりしが今長三郎が手を
南屋の
普請に
懸つて
居るので、ちやうど
與吉の
小屋と
往來を
隔てた
眞向うに、
小さな
普請小屋が、
眞新い、
節穴だらけな、
薄板で
建つて
居る、
三方が
圍つたばかり、
編むで
繋いだ
繩も
見え
蒸暑いのが
續くと、
蟋蟀の
聲が
待遠い。……
此邊では、
毎年、
春秋社の
眞向うの
石垣が
一番早い。
震災前までは、
大がい
土用の
三日四日めの
宵から
鳴きはじめたのが、
年々、やゝおくれる。