由緒ゆゐしよ)” の例文
彼は今は脱落崩壊の状態に陥つてゐるが夥しい由緒ゆゐしよある古い一門に生れ、川向うの叔母の家からぴか/\磨いた靴を穿いて通学してゐた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ひらいてみらるゝに小判にて金百兩あり大岡殿心中にはなはだ感じられ是は全く由緒ゆゐしよある武士なり兎角零落に及んでも萬一の時のためにと先祖せんぞの意を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ならんだぜんは、土地とち由緒ゆゐしよと、奧行おくゆきをものがたる。突張つツぱるとはづれさうなたなから飛出とびだした道具だうぐでない。くらからあらはれたうつはらしい。御馳走ごちそうは——
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
横幅廣く結ひ下げて、平塵ひらぢりの細鞘、しとやかに下げ、摺皮すりかは踏皮たびに同じ色の行纏むかばき穿ちしは、何れ由緒ゆゐしよある人の公達きんだちと思はれたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
盜むとか、賣るとか、質に入れるなら解つてゐるが、由緒ゆゐしよ因縁のある千兩道具を、三文瀬戸物のやうに叩き割る奴が出て來た事には井筒重兵衞も膽を
かく、昔から由緒ゆゐしよのある寺だから、このまゝかうして置くのは残念だ。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
さわがしたるに依て此方へ召捕めしとり置たり但し吟味致すべきなれども亂心にまぎれなき故今日引渡し遣す尤も由緒ゆゐしよも是有家來ならば隨分ずゐぶんねんを入て療治れうぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
由緒ゆゐしよ正しい堀江家の跡取に直されるかも知れない——と、用人の松山常五郎といふ人がやつて來て、たつての頼みだ
むかしは兩岸りやうがん巨木きよぼくて、これふぢつな十條とすぢき、つないたわたしたとふ、いちじるしき由緒ゆゐしよがあつて、いまも古制こせいならつた、てつ釣橋つりばしだとふ……おまけにうたまである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かく由緒ゆゐしよのある寺をかうして置くのは惜しい。」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
見れば幾許いくら大家の由緒ゆゐしよある家のといふても町人は町人だけで詮方せんかたなし必ず喃々くよ/\思ふなよとはげましながら父親も同じ袂をうるほはしぬ娘はやう/\顏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「へエ、呑氣ですね。この邊も名題の神田御臺所町で、由緒ゆゐしよのあるところだ。大膳坊に頼んで觀て貰つちやどうです。相馬の御所から持ち運んで來た、平將門たひらのまさかどの軍用金が埋めてないとは限りませんぜ」
それに古い由緒ゆゐしよが更にこの寺を価値ねうちづけた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)