片側町かたかはまち)” の例文
屋根やねの低い片側町かたかはまち人家じんか丁度ちやうどうしろから深いどぶはうへと押詰おしつめられたやうな気がするので、大方おほかたのためであらう、ほどに混雑もせぬ往来わうらいがいつもめういそがしく見え
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
兩國といへばにぎわしきところと聞ゆれどこゝ二洲橋畔けうはんのやゝ上手かみて御藏みくら橋近く、一代のとみひろき庭廣き家々もみちこほるゝ富人ふうじんの構えと、昔のおもかげ殘る武家の邸つゞきとの片側町かたかはまち
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
片側町かたかはまちなる坂町さかまち軒並のきなみとざして、何処いづこ隙洩すきも火影ひかげも見えず、旧砲兵営の外柵がいさく生茂おひしげ群松むらまつ颯々さつさつの響をして、その下道したみち小暗をぐらき空に五位鷺ごいさぎ魂切たまきる声消えて、夜色愁ふるが如く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
荒物屋に少しばかりの呉服物ごふくものを附け加へた家の並んでゐる片側町かたかはまちを通つて、やつと車の通ふほどの野道の、十字形になつたところへ來ると、二人は足を止めて、う行かうかと顏を見合はした。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しまつたりと退きて畜生ちくしやうめとはまことみつけのことばなり、ものなればおもからぬかさしらゆき往來ゆきかひおほくはあらぬ片側町かたかはまちうすぐらきに悄然しよんぼりとせし提燈ちやうちんかげかぜにまたゝくも心細こゝろぼそげなる一輛いちりやうくるまあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)