熟睡じゅくすい)” の例文
のうち一間のほうには、お十夜孫兵衛、宿酔ふつかよいでもしたのか、蒼味あおみのある顔を枕につけ、もう午頃ひるごろだというに昏々こんこん熟睡じゅくすいしている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の瞼はもはやそれを閉じるべき筋肉の使用法を忘れ果て、夜、熟睡じゅくすいしている時でも、紀昌の目はカッと大きく見開かれたままである。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ふと自分のけちな根性で受けたこの宵越しの金が気にならないでもないが、何を買ってやろうにも子供は、もう、熟睡じゅくすいしているに違いない。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
荻生さんは床にはいると、すぐいびきをたてて安らかに熟睡じゅくすいした。こうして安らかに世を送り得る人を清三はうらやましく思った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
昨夜は熟睡じゅくすいした筈だが、まだ瞼のあたりに疲労が残っている。荷台の若者と運転手は、意味の判らない早口の会話を交わし、笑い合う。五郎は訊ねてみる。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
外観そとみはどこまでも熟睡じゅくすいていで、狸寝入りの泰軒先生、やにわに寝語ねごとにまぎらしてつぶやき出したのを聞けば
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
警備の人々は帽子をいでホッと溜息ためいきらしました。そして道傍みちばたにゴロリと横になると、積り積った疲労が一時に出て、間もなく皆はどろのような熟睡じゅくすいに落ちました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくら眠っても寝足りない年頃としごろの奉公人共は床に這入るとたちまちぐっすり寝入ってしまうから苦情をいう者はいなかったけれども佐助は皆が熟睡じゅくすいするのを待って起き上り布団ふとん
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人のうめき声がしたかと思うたが、其は僻耳ひがみみであったかも知れぬ。父は熟睡じゅくすいして居るのであろう。其子の一人が今病室のあかりながめて、この深夜よふけに窓の下を徘徊して居るとは夢にも知らぬであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ふたりは極度きょくど疲労ひろうした人のように、鼾声かんせいをあげて早くも熟睡じゅくすいした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
いつとなく、団九郎も彫像ちょうぞう三昧さんまいを知った。木材をさがしもとめ、和尚の熟睡じゅくすいをまって庫裏の一隅に胡座あぐらし、のみふるいはじめてのちには、雑念を離れ、屡〻しばしば夜の白むのも忘れていたということである。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
荻生さんが一番先に鼾声いびきをたてた。「もう、寝ちゃった! 早いなア」と小畑が言った。その小畑もやがて疲れて熟睡じゅくすいしてしまった。清三は眼がさめて、どうしても眠られない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「午後四時までこのうちにて熟睡じゅくすいする故、何者もわが熟睡をさまたぐるなかれ。金博士」
奥庭おくにわまでは白壁門しらかべもん多門たもん、二ヵしょ難関なんかんがまだあって、そこへかかった時分には、いかに熟睡じゅくすいしていたさむらい小者こものたちも眼をさまし、警鼓けいこ警板けいばんをたたき立て、十手じって刺股さすまたやり陣太刀じんだち半弓はんきゅう袖搦そでがら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)