煤烟ばいえん)” の例文
今や工場こうじょう煤烟ばいえんと電車の響とに日本晴にほんばれの空にもとんびヒョロヒョロの声まれに、雨あがりのふけた夜に月は出ても蜀魂ほととぎすはもうかなくなった。
が、いくら見廻しても、どこの停車場のプラットフォウムにもある、煤烟ばいえんと風雨によごれたこんくりいと平面の一部に過ぎない。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
川の向うに見えてゐる大きな煙突からうづまきあがる煤烟ばいえん、——ふと、「あれ、あれ!」とけたゝましい声が起つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
団々だんだんとして渦巻く煤烟ばいえんは、右舷うげんかすめて、おかかたなだれつつ、長く水面によこたわりて、遠く暮色ぼしょくまじわりつ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新淀川にかけられた長い鉄橋を渡ると、もうあわただしい煤烟ばいえんと油に汚れた都会の裏町が始まる。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
次いで話は作品の上に及んで、「蒲団ふとん」がどうの、「煤烟ばいえん」がどうのと云うことになる。意外に文学通だと思って、純一が聞いて見ると、どれも読んではいないのであった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
墨汁に比すべき余が乞食の如き有様にてウェストミンスターあたりを徘徊はいかいして、人工的に煤烟ばいえんの雲をみなぎらしつつあるこの大都会の空気の何千立方尺かを二年間に吐呑とどんしたるは
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……その上から吐き出されて行く黒い煤烟ばいえんのうねりと、青い青い空の色……?……
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたくしはもう「煤烟ばいえん」を読んだおりの感想を思い出すことが出来ません。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
高所にあると云う感じだけで胸苦しくなり、最高層の窓からわずかに、足下に煤烟ばいえんの下に横たわる大阪市を瞥見べっけんしたに過ぎぬが、その視野の宏大なるは、さすがに太閣の築きたるに耻じないと思った。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
烟筒えんとう空を衝いて煤烟ばいえん天をみなぎらすの製造者あり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
煤烟ばいえんと油じみの停車場も
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
余の寓居ぐうきょした今井町の高台などは遠い田舎に行ったようで空気は新鮮で煤烟ばいえんが無いから、住宅や商店のあるは黒くあるは白く引続いているあたりを越して
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「どうも『煤烟ばいえん』は大変な事になりましたな」と大きな声で云った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何処どこからともなく煤烟ばいえんすすが飛んで来て、何処という事なしに製造場せいぞうばの機械の音が聞える。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うも『煤烟ばいえん』は大変な事になりましたな」と大きな声で云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
何処どこからともなく煤烟ばいえんすゝが飛んで来て、何処どこといふ事なしに製造場せいざうばの機械の音がきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)