煤掃すすは)” の例文
「去年の暮れの煤掃すすはきの折、ここの家では、日本間の方の天井板をすっかりはがして、灰汁あく洗いをした相だね。それは本当だろうね」
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その年の師走の十四日、おせきの家で煤掃すすはきをしていると、神明前の親類の店から小僧が駈けて来て、おばあさんが急病で倒れたとしらせた。
影を踏まれた女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暮につか煤掃すすはきの煤取りから、正月飾る鏡餅かがみもちのお三方さんぼうまで一度に買い調えなきゃならないというものじゃなし、おへッついを据えて、長火鉢を置いて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
東京中の煤掃すすはきの塵箱ごみばこを此処へ打ち明けた様なあらゆる襤褸ぼろやガラクタをずらりと並べて、売る者も売る、買う者も買う、と唯驚かるゝばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
煤掃すすはきも済み餅搗もちつきも終えて、家の中も庭のまわりも広々と綺麗きれいになったのが、気も浮立つ程嬉しかった。
守の家 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あくる日、池渫いけさらいに行った平次とガラッ八は、あまりの事に仰天しました。瓢々斎ののこした寺島の寮は、店仕舞と煤掃すすはきと壊し屋を一ぺんにけしかけたほどの荒らしようです。
家の中は区役所の出張員が硫黄いおうの煙と石炭酸せきたんさんで消毒したあと、まるで煤掃すすはきか引越しの時のような狼藉ろうぜきに、丁度人気ひとけのない寂しさを加えて、葬式の棺桶かんおけ送出おくりだした後と同じような心持である。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
煤掃すすはきのような音を立てて、教室の椅子卓いすつくえを片づけているものもあった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「この国の季候は湿気が強い、畳はその湿気と塵埃じんあいの溜り場だ」と去定は続けていった、「ためしにどこの家でもいい、そしていま煤掃すすはきを済ませたばかりの畳を叩いてみろ、必ず塵埃が立つだろう、 ...
煤掃すすはきも面倒臭いと移転する」
九三 煤掃すすはきと出代り
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
臆病者も頗英雄になった気もちだ。夏の快味は裸の快味だ。裸の快味は懺悔ざんげの快味だ。さらけ出したからだ土用干どようぼし霊魂れいこん煤掃すすはき、あとの清々すがすがしさは何とも云えぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
特に煤掃すすはきをする家は稀であるらしいが、その頃はどこの家でも十二月にはいって煤掃きをする。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
としいちを観ないでも、餅搗もちつきや煤掃すすはきの音を聞かないでも、ふところ手をして絵草紙屋の前に立ちさえすれば、春の来るらしい気分は十分に味わうことが出来たのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
都でははれの春着もとうに箪笥の中に入って、歌留多会の手疵てきずあとになり、お座敷ざしきつゞきのあとに大妓だいぎ小妓のぐったりとして欠伸あくびむ一月末が、村の師走しわす煤掃すすはき、つゞいて餅搗もちつきだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
煤掃すすはきですよ」
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)