為様しよう)” の例文
旧字:爲樣
私はもう為様しようがないといった風に再び目を閉じたまま、いまこそ私との不和がお前から奪ったものをはっきりと知った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
娘の両親も困ってしまって、何とかして御礼を為様しようとしましたが、どうしてもこれより外に御礼の仕方はありませぬ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「須田町から先は、自分ながら可怕おっかなくて為様しようがなかったの。だけど訳はない。二三度乗まわせば急度きっと平気になれます」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
可哀そうだって、どうも為様しようはないじゃありませんか。内には庭はないし。それだといって、家の中へあんなものを
「いけねえ、いけねえ。しっこしのねえなりをしていちゃあ威勢が悪くて為様しようがねえや。こいつをかぶって、日本男児らしくやって貰わなくちゃあ。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
梅を使にして何か持たせて上げようと思っても、それは出来ず、お目に掛かっても、物を言うことが出来なくては、どうにも為様しようがなくなってしまう。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「済まないことをしましたね」私は彼女の髪の毛を優しく指で真探まさぐった。「私は為様しようの無い馬鹿なのです」
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「だッて、現在、生き証拠があるんだから為様しようがあるめえ。嘘だと思ったら今度行って、賭をやってみるさ」
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(画家欷歔ききょす。)あなたがそうしておしまいなさったのでございますから、為様しようがございませんわ。
こうなって来ると、何んとか見得を切らなければ花道の引込ひっこみが付かない。しかしこの場の敗北は散々の体為ていたらく、いかんとも為様しようがないので、黙って引込むにしかずと考えた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
「しかし誰でもあの男の場合に出合ったら、あの男と同じ行為に出でたでしょう。どうも外に為様しようはないじゃありませんか。一体被告の申立ては法廷を嘲弄しているものと認めます」
(新字新仮名) / オシップ・ディモフ(著)
「妙だな、お前また腹が立って為様しようがないから、そこで身体からだを寝かしていたろう。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
合点がてんならねば、是是これこれ御亭主、勘違い致さるゝな、お辰様をいとしいとこそ思いたれ女房に為様しようなぞとは一厘いちりんも思わず、忍びかねて難義をたすけたるばかりの事、旅の者に女房授けられてははなはだ迷惑。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「そう云えば彼処の湯に入ってる客たちだってそんな奴ばかりでしたよ、長距離電話の利く処に行っていたんじゃア入湯の気持はせぬ、朝晩に何だ彼だとかかって来てうるさくて為様しようがない、なんて」
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
「気になって気になって為様しようがなかったんですよ。きっと。」
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私はもう為様しようがないといった風に再び目を閉じたまま、いまこそ私との不和がお前から奪ったものをはっきりと知った。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あの弁士がまた為様しようのない男で、お金がないというと、あばれまわって姐さんと取っ組み合いの喧嘩けんかをするそうだわ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いや。夏が好くもないね。今時分はもやが一ぱい立ちめて、明りをねらって虫が飛んで来て為様しようがないからね。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そうして今一度の鳥をとらえようでは御座いませぬか。何、訳は御座いませぬ。直ぐに捕まえてこの籠に入れられますよ。如何いかがで御座います。そう為様しようでは御座いませぬか
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
『気のせいだ。俺はそう思う。あまり吾々が、心をつかい過ぎるのは、殿様のお心を、よけいにぐようなものだ。御城外にあっては、為様しようがないじゃないか。飯でも食おう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(娘は驚の余りに麻痺したるごとき様子にて両手をうしろに引く。画家は詞無く、為事を続く。娘、突然激しく感動したる様子にて両手にて顔を覆う。)おい。どうしたんだい。為様しようがないなあ。
「ふむ、悪い奴だね」お島は首をかしげた。「畜生ちきしょう、私をうらんでいるんだ。だがミシンがなくちゃ為様しようがないね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところが、どうも僕にはその日常生活というものが、平凡な前面だけ目に映じて為様しようがないのです。そんな物はつまらないと思うのです。これがいつかもお話を
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これまで安らかな無為の中にばかり自分を見出していた女は、急に自分の前に何やら不安を感じながら、それでも外に為様しようがないように人々の云うとおりになっていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そして慾でするなら、書生風の自分を相手にせずとも、もっと人選にんせん為様しようがありそうなものだと、謙譲らしい反省をする、その裏面には vanitéヴァニテエ が動き出して来るのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わたくしはもうこれぎりの身と思い、自分の事なんぞはとうから諦めておりますが、ただ一しょにいる此娘がこのままではあんまり不便ふびんで、なんとか為様しようはあるまいかと思って居りました。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「私も小説が書きたくて為様しようがなかったんですけどもね。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はその隣村(追分おいわけ)で二年ばかり続けて、一人っきりで冬を過したことがあるが、ときどきどうにも為様しようのないような気もちになると、よく雪なんぞのなかを汽車に乗って、軽井沢まで来た。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もう自分の老いかかった姿を見られるのははずかしいようだが、どうにも為様しようがないので、少女を自分の側から離さぬようにして物語のお相手などしているが、いつも派手好みで、匂うような桜がさねの
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)