たら)” の例文
平次はその酒を嗅いでみましたが、もとより何んの臭ひがあるわけではなく、たらしてめて見ても、味に何んの變りもありません。
滑らかな石砥いしどに油をたらして、その上に靜かにメスを走らせながら、彼れは刃物と石との間に起るさゝやかな音にぢつと耳をすましてゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
硝盃コツプさきに水をれて、ポタリ/\とびんの口をけながらたらすのだが、中々なか/\素人しろうとにはさううま出来できない、二十てきと思つたやつが六十てきばかり出た。殿
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
そは餅を小さく切りこんがりと焼き湯に漬けて柔になし椀に盛りて大根おろしを懸け砂糖を少しく振り焼海苔を細く揉みてかけ醤油を少しくたらして食す。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
形体なりは私が寝ていて想像したよりも大きかったが、果して全身雨に濡れしょぼたれて、泥だらけになり、だらりと垂れた割合に大きい耳からしずくたら
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
爺さんは玉の汗をぽたぽたたらしながら、今まで一度も口をきいたことのないわたくしに、幾度となく礼を言った。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はそのひとたらしもない薬液を、口の中へたらしこんだ。それはたいへんにがい薬だった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
「おちやん、矢ツ張り蝋燭やなア。」と定吉は、匂ひを嗅いだだけでは諦められぬらしく、マッチを擦つて火を點けてみて、板の間へ一たらしたらした熱い蝋で其の蝋燭の尻を据ゑて
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
心持ち顔をそむけながら、脱脂綿の一片の上にポトポトとたらしました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
血をたらし、とどろとはしる。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
どうして? あの顔や、様子は、浪子夫人そっくりじゃないか、浪子夫人が離屋はなれへ忍び込んで、うたた寝をして居る夫の口へ青酸をたらし込んで、鍵を
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
牛乳をてその中へ梅や桃の液をたらすと牛乳中の脂肪が水分と分離して白い固形かたまりになる。それと似たように鰻の毒分へ何か化学作用を起すのに違いない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
悪獣のあなうらのごと血をたらす。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「自分の首へ凧糸を巻いて、その凧糸の上から、存分に水をたらし込んだというわけでしょう、——冷たいことだね」
用ゆる時は鉄網てつあみの上へ魚を載せて今のサラダ油とバターとをかわがわる匙でたらしながら火のとおるように焼きます。もしや魚のあぶらが火へ落ちて燃え上ったらば塩を少し火の中へ入れると燃えがみます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ぐ近くにある水道の口から、指の先へ水を一滴受けて来て、それを十銭の白銅貨の穴へたらし込むと、水のしたたりがそのまま穴を塞いで簡単なレンズが出来上ります。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
もう一度その上へ水をたらし込んで、水の膜を真ん中で盛り上るようにさせた上、一生懸命十銭玉の穴から、指環の文字を覗いて居た加奈子は、思わず喜びの声をあげました。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「戸板を背負せおはせて寢かした横井の口を、のみか何かで無理にコジ開け、あのギヤーマンの瓶から毒藥を横井の口中にたらし込んだに違ひあるまい、横井の前齒が二本缺けて居たのはその爲だ」