清洒せいしゃ)” の例文
師直は先に立って、いつか清洒せいしゃな木の間の露地へ曲がっていた。おくに家があるのか、きれいに箒目ほうきめが立っている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食器の清洒せいしゃ風雅なるまたおおいに誇るに足るべし。西洋支那の食器金銀珠玉を以てこれを製するあり、その質堅牢にしてその形の壮麗なる元より我国の及ぶ処ならず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
高い石磴いしだんを登って清洒せいしゃな神護寺の境内に上って行き、そこの掛け茶屋に入って食事をしたりしてしばらく休息をしていたが、あおく晴れた空には寒く澄んだ風が吹きわたって
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
和金の清洒せいしゃな顔付きと背肉の盛り上りを持ち胸と腹は琉金の豊饒ほうじょうの感じを保っている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かいもなくもなしに、浜松の幹に繋いで、一棟、三階立は淡路屋と云う宏壮な大旅館、一軒は当国松坂の富豪、池川の別荘、清洒せいしゃなる二階造、二見の浦の海に面した裏木戸のりょうあわい
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指南間しなんまともいえるであろう、まず床には狩野派の清洒せいしゃ細軸ほそもの江月こうげつ書額しょがく螺鈿彫らでんぼりの千鳥棚、隅には琉球朱りゅうきゅうしゅの机、中ほどには華やかな鍋島絨毯なべしまじゅうたんが敷かれてあって
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その理由はただに男女相思の艶態に恍惚たるがためのみにあらず、人物と調和せるその背景が常に清洒せいしゃなる小家こいえ内外ないがいを描き、格子戸こうしど小庭こにわ欞子窓れんじまどよりまくら屏風びょうぶ長火鉢ながひばち箱梯子はこばしごかまど等に至るまで
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の命令はき過ぎられるくらいいた。清洒せいしゃなる彼の歩みが向いて来ると、誰もみなピリッとした。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例の老軍卒が彼をみちびいて、監房隧道トンネルから、陽の目のある階段を先に登って行った。いよいよ土牢行きかな? 思っていると、さにあらず、清洒せいしゃな一おくの明るい部屋だ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
町家の隠居所でもありそうな清洒せいしゃな門を開けて、訪れると、奥で聞えていた陽気な女達の声がやんで、簀戸すどの蔭から四十前後の薄化粧うすげしょうした妻女が、何気なく出て来たらしいが
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこでかの女と馴染なじまれたかは、よくわからないが、世間へは、中御門家なかみかどけの息女とふれて、八坂のほとりに、清洒せいしゃ桧垣ひがきをめぐらした一と構えができ、さる白拍子あがりの佳人かじん
しかし釣殿といえ、寝殿しんでんといえ、こうもち古びているやかたは、洛外らくがいでもめずらしい。ただ、さすがに庭面にわもは、あるじのゆとりというものか、この自然をよく生かし、掃除そうじもとどいて清洒せいしゃである。
清洒せいしゃを誇っている風に見える。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)