こお)” の例文
ちらほらここからも小さく見えますね、あの岸の松も、白いみのかついで、渡っておいでの欄干は、それこそ青くこおって瑪瑙めのうのようです。
こおったようなその部屋の中に、シイカと夫と彼らの子とが、何年も何年も口一つきかずに、おのおの憂鬱な眼差しを投げ合って坐っていた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
そして寒気かんきは刺すようで、山のの月の光がこおっているようである。僕は何とも言えなく物すごさを感じた。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
漢字では「乳穂」とも書き、人の乳房の形にこおるとも言ったが、それはおそらくは文字の知識のある者の想定に限られ、普通には是がニホであることをみな知っていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おまえのあたまったのは、こおりですよ。あまりさむいので、みずおもてこおっているのです。
魚と白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「家においでになっても、お心だけは外へ行っていては私も苦しゅうございます。よそにいらっしってもこちらのことを思いやっていてさえくだされば私のこおった涙も解けるでしょう」
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それは月もこおるという大寒たいかんが、ミシミシと音をたててひさしの上を渡ってゆく二月のはじめの夜中の出来ごとだった。カフェ・ネオンの三階の寝室で、春ちゃんが惨殺ざんさつされてしまったのである。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
フィンランド語の kuura(霜)は日本の「こほり」の音便読みに近い。英語の cold は冷肉(コールミート)のコールである。こおるに近い。朝鮮語で冬は「キョーウル」である。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
深山茂の顔には、解き難い疑問が、こおった雲のようにただよいました。
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
霜白き芦荻ろてきには、舟がこおりつき、鴻雁こうがんの声も、しきりだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
精出せばこおる間も無し水車
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あらず、なお一人の乙女おとめ知れり、その美しきまなこはわが鈍き眼に映るよりもさらに深く二郎がこおれる胸に刻まれおれり。刻みつけしこの痕跡あとは深く、凍れる心は血に染みたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
谷川の水、流れとともに大海だいかいに注がないで、横にそれて別に一小沢を造り、ここによどみ、ここに腐り、炎天にはその泥沸き、寒天にはその水こおり、そしてついにはれゆくをまつがごときである。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大通おおどおりいずれもさび、軒端のきば暗く、往来ゆきき絶え、石多き横町よこまちの道はこおれり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)