水面みのも)” の例文
川は目のさめるような緑の両岸にふちどられて、水面みのも浅葱あさぎいろの空を映しながら、ところどころ陽の光を銀色に射返して、とてもきれいだった。
接吻 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それからそこに腰をおろして、寂しい水面みのもへ眼を送った。湖には遠く一二点、かいつぶりの姿が浮んでいた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
悍気かんきの立った生唼いけずき磨墨するすみも、水面みのもから立つ狂風に吹かれると、たてがみを強く振って、いななきぬいた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水面みのもを一陣の風がはしるように、——彼はいま思いだす、平之助の絶望的な状態を、法はずれの奇手をあみだす苦しまぎれのもがきを、こんな下手くそな中傷の仕方を
主計は忙しい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
浮影楼ふえいろうという名前をその儘に、昼間なら狩野川の水面みのもに欄干から姿の映りそうな二階座敷に納まった。仙夢さんが手筈を極めて置いて呉れたと見えて、すぐにお膳が並んだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
既にして波上の鳥と波底の魚と、一齊にしづまり、鷲の翼の水面みのもおほふこと蓮葉はちすはの如くなりき。
まるで水面みのもにうかぶ泡のようなものが、ぶくぶくと浮きあがるような目にあわして見たまえ、また人間に十二分の経済的満足を与えて、ただぐうぐう寝たり、生姜餅を食ったり
自分の姿をその白銀しろかねのような水面みのもに映してさめざめと泣いているのを見る。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
水面みのもゆく櫂のしづくよ雪あかり漕げば河風身に染みわたる
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
汝がこゑの 水面みのもの浮鳥
蛇の花嫁 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
水面みのもに落ちて光ある
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
舟人は漁舟すなどりぶねくがに曳き上げたり。暮色漸く至れば、新にともしたる燈火その光を増して、水面みのもは碧色にかゞやけり。一時四隣は寂として聲なかりき。忽ち歌曲の聲の岸より起るあり。
声もなく眠っているきょうの町は、加茂川の水面みのもがかすかな星の光をうけて、ほのかに白く光っているばかり、大路小路の辻々つじつじにも、今はようやく灯影ほかげが絶えて、内裏だいりといい、すすき原といい
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十一月の下旬、暖たかかった一日のれがたで、大川の水面みのもはまだ明るく、刃物のような冷たい色に波立っているが、みよし町の河岸に並んだ家並は暗く、ぽつぽつとあかりのつき始めるのが見えた。
ひとでなし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
水すまし夕日光ればしみじみとねてつるめり秋の水面みのも
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
われは寺院に往きてアヌンチヤタが爲めに祈祷し、又その墓に尋ねまうでつ。此地の瑩域えいゐきは、高き石垣もて水面みのもより築き起されたるさま、いにしへのノアが舟の洪水の上にうかべる如し。
渡し船の舷にひじをついて、もうもやのおりかけた、薄暮の川の水面みのもを、なんということもなく見渡しながら、その暗緑色の水のあなた、暗い家々の空に大きな赤い月の出を見て、思わず涙を流したのを
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かげ寒き池の水面みのもやつれづれと家鴨あひるおよげり鴛鴦をしどりを前に
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
かげ寒き池の水面みのもやつれづれと家鴨あひるおよげり鴛鴦をしどりを前に
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とのぐもり老木おいきの楊影落す水面みのもあかりを飛べる絮あり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
水面みのもには荷足にたりの暮れて呼ぶ声す、太皷ぞ鳴れる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
桑の果の赤きものかげより、午後ひるすぎ水面みのもは光り
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
えたる吐息といきそこはかと水面みのもばむ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
葉かげの水面みのも銀色ぎんいろ静寂しづけさる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
青くめしひし水面みのもにほ薬香くすりがにほふ。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのかげに透く水面みのもこそ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこここの水面みのもより
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
朝の水面みのも燻銀いぶしぎん
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)