なら)” の例文
死後には翼をならべた形を彫刻にまで造られて、それを戀とも哀傷ともされ、たゞ/\二人にあやかりたいやうな男や女の語り草となる。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
うつくしき君のすまいたるは、わが町家まちやの軒ならびに、ならびなき建物にて、白壁しらかべいかめしき土蔵も有りたり。内証はいたく富めりしなりとぞ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日頃容易には居城しろを離れぬ尊厳ならびなき弾正太夫がわずかに数人の部下を連れ騎馬で吟味所まで乗り付けて来たのも
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お貞さんは兄が籐椅子から立ち上るのを見るや否や、すぐ腰を立てて一足先へ階子段はしごだんをとんとんと下りて行った。自分は兄と肩をならべてへやを出にかかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
坐舗の一隅いちぐうを顧みると古びた机が一脚え付けてあッて、筆、ペン、楊枝ようじなどを掴挿つかみざしにした筆立一個に、歯磨はみがきはこと肩をならべた赤間あかますずりが一面載せてある。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やがておれも是になって、肩をならべてていようが、お互に胸悪くも思はなくなるのであろう。
遺骸は麻布長谷寺ちやうこくじに葬られた。墓はかみに記した如く、父蘭軒の墓とならんで立つてゐる。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
両者共に独立不羈どくりつふきにして天下の徳望を博したる点に於ては他にならぶ者がない。
唯一の文学だつた短歌と肩をならべさうな機運をきつけてゐた。
受クル身/方外情深シ父親ニならブ/只おもフ金裟長ク眼ヲ慰ムト/何ゾ図ラン素服忽トシテ神ヲやぶル/登高ノ日是レ登天ノ日/称寿ノ人称仏ノ人ト為ル/此従これよリ重陽斎戒ニ過グ/吾ガ家歳歳佳辰ヲ廃サン〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「あの邊でならぶ者もない美男で」
だから木蔭に立って、兄と肩をならべた時、代助は丁度好い機会だと思った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だから木蔭こかげに立つて、あにかたならべたとき、代助は丁度い機会だと思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よし同型中に鋳化ちゅうかせられんでも軒をならべて狂人と隣り合せにきょぼくするとすれば、境の壁を一重打ち抜いていつのにか同室内に膝を突き合せて談笑する事がないとも限らん。こいつは大変だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は肩をならべてまた歩き出した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)