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此女
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このをんな
此女は
国から
連れて
来たのではない、
江戸で
持つた
女か知れない、それは
判然分らないが、
何しろ
薄情の
女だから
亭主を
表へ
突き出す。
此女が
上に
坐つて、
紫の
女が、
斜めになよ/\と
腰を
掛けた。
落した
裳も、
屈めた
褄も、
痛々しいまで
亂れたのである。
「えゝ。
出来たの」と云つた。大きな黒い
眼が、
枕に
着いた三四郎の顔の
上に落ちてゐる。三四郎は
下から、よし子の
蒼白い
額を見上げた。始めて
此女に病院で逢つた
昔を思ひ
出した。
下女と
徇れてゐた
醜女計りを
伴ふて
來たので、
而して
此女には
乳呑兒が
有つた。
三十
圓どりの
會社員の
妻が
此形粧にて
繰廻しゆく
家の
中おもへば
此女が
小利口の
才覺ひとつにて、
良人が
箔の
光つて
見ゆるやら
知らねども、
失敬なは
野澤桂次といふ
見事立派の
名前ある
男を