本牧ほんもく)” の例文
横浜本牧ほんもくあたりでれたまきえびを、生醤油きじょうゆに酒を三割ばかり割った汁で、弱火にかけ、二時間ほどげのつかないように煮つめる。
車蝦の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
尻屋しりやの燈台、金華山きんかざんの燈台、釜石かまいし沖、犬吠いぬぼう沖、勝浦かつうら沖、観音崎かんのんざき浦賀うらが、と通って来た。そして今本牧ほんもく沖を静かに左舷さげんにながめて進んだ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
千歳の方をひきあげさせて、ぜひ、わしの本牧ほんもくの別宅へお連れ申さにゃならん。そういうことは、女の交際術で、上手にやるのが役目だ。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市電で本牧ほんもくへ行く途中、トンネルをぬけてしばらく行ったあたりで、高台の中腹にきれいな紅葉に取り巻かれた住宅が点在するのをながめて
漱石の人物 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
本牧ほんもくから洲崎あたりのピンピンしたのは来ないのかい」と通らしい顔をして聴いたら、若い衆は「エエ」とニヤニヤ笑いながら返事をしなかった。
本牧ほんもくに連れていって勝治に置いてきぼりを食らわせたのも、こいつだ。勝治がぐっすり眠っている間に、有原はさっさとひとりで帰ってしまったのである。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
やがて、それが横浜よこはま本牧ほんもく三ノたにだといふことがわかり、生憎電話はないが、夏の七八九、三ヶ月は軽井沢かるゐざわ滞在として、その番地までちやんと名簿に出てゐた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それは本牧ほんもくあたりの風景の写真であった。次に列べられた一枚の写真——それをひと目見ると、半七も松吉も思わず身を動かした。それは女の裸体写真であった。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒烟こくえんを吐いて本牧ほんもくの沖に消えて行く巨船の後ろ影を見送っているうちに、兵馬は、壮快な感じから、一種の悲痛な情が湧いて来るのを、禁ずることができません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は本牧ほんもくで働いている彼の一人娘清子きよこを除いては、この古い建物が彼の唯一の財産だった。ところで壮平爺さんは、目下大変な財政的ピンチにのぞんでいるのだった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
同六日米艦本牧ほんもくに入る、幕閣みな震う、会議夜に徹して、さらに定まれる廟算びょうさんなし。廟算上に定らざれは、驚慌下においてさらに甚し。当時の事情を記するもの曰く
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
し本当にその方針をとっ本牧ほんもくの鼻をまわれば英人は後から砲撃するはずであったと云う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だんだん贅沢が身にみるに従い、やがてその家も手狭だと云うので、間もなく本牧ほんもくの、前に瑞西スイス人の家族が住んでいた家を、家具ぐるみ買って、そこへ這入るようになりました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この年正月十三日、米艦が再び浦賀に来り、翌日本牧ほんもくの沖に碇泊ていはくして空砲を放った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
底光りのする雲母色きららいろの雨雲が縫い目なしにどんよりと重く空いっぱいにはだかって、本牧ほんもくの沖合いまで東京湾の海は物すごいような草色に、小さく波の立ち騒ぐ九月二十五日の午後であった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
本来そう好きでもない酒をあおって、連中と一緒に京浜国道をドライブして本牧ほんもくあたりまで踊りに行ったこともあったが、そのころには船会社で資産を作った養家からもらった株券なども多少残っていて
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで、船首を本牧ほんもくの方へ向けた。伝馬は進んだ。しかし、それは激流を横ぎるような作用と共に進んだのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
六郷ろくごう川がよいとか、横浜本牧ほんもくがよいとかいうのは、以上の理由によるもので、どこそこのうなぎというものも、移動先の好餌のあるところを指すわけだ。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
本牧ほんもくさんたにに、遠くからでも見える十九世紀型の西洋館と、破風はふづくりの、和洋折衷せっちゅうの、その頃ではめずらしい、また、豪奢ごうしゃなとも驚かれていた、別荘があった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えびは京阪けいはんが悪くて、東京の大森、横浜の本牧ほんもく、東神奈川あたりれる本場と称するものがいい。こういうものを賞味するようにならなければ、食通とはいえまい。
車蝦の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その中の一人と日曜日に本牧ほんもくの海岸へ遊びに行った話もした。ぼくは羨ましげに聞きほじった。ここに長くいる間には自分にもそんな幸運が巡って来そうな気がした。
本牧ほんもくの燈台をながめて、港口標光を前にながめながら、わが万寿丸は横浜港外に明朝検疫までを仮泊した。三千トンの重さと大きさとの、怪獣のうなりにも似た轟音ごうおんと共にいかりは投げられた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「きょう本牧ほんもくへ行ったことだけは分っている」
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)